岸田文雄総理が目指す「新しい資本主義」。三位一体改革で転職しやすい労働市場にするという。その行く先は企業の「雇用保障・雇用責任」の軽減、社員一人ひとり、自身の力で業績を上げ、社に認められ、勤続年数・年齢に関係なく「給与の高い『職務』に就く」(職務給)社会の実現を目指すもので、労働者にとって、社員の一体感より、個人磨きに傾斜、自立心が育ち、会社への依存心は弱まるが、愛社精神も薄れ、これまで以上に競争社会の路につながるだろう。
岸田総理は6日の「新しい資本主義実現会議」で、個々人がスキルアップしやすい環境へ「リ・スキリング(学び直し)による能力向上支援を促す」とした。「それを的確に評価し、賃上げにもつなげていくため『職務給』『ジョブ型』人事の導入を進める」と強調。
社員それぞれが学び直しでスキルアップし、会社への業績貢献度が高ければ見合った担当業務へ配置。担当内容に応じ給与を決める「職務給」制度で賃上げにつなげるというのだが、これは終身雇用・年功序列の給与体系を排し、完全「成果主義」社会へ進めることを意味する。
岸田総理はこの日の会議で「希望する個人が雇用形態、年齢、性別、障害の有無を問わず、自らの意思で、企業内での昇任・昇給、企業外への転職による処遇改善、スタートアップ等への労働移動といった機会を確保できる社会を作っていく」と強調した。「転職」で所得が「上がった」とする比率が「下がった」とする比率を上回れば政策は成功とする。
岸田総理の表現は一見、労働者に労働市場を大解放するように聞こえるが、職務給・ジョブ型の給与形態は成果を出せず同じ業務にとどまる従業員の給与は勤続年数に関わらずそのまま増えることが期待できない。職務に対しての給与であるため、年齢、勤続年数、経験に関係なく、職務が変われば減給も覚悟しなければならないことを理解しておくことが必要だ。年数ごとに給与の上がる社会からの離脱を意味する。
政府の骨太の方針原案ではスキルアップのための学び直し支援を、5年以内をめどに今の事業所経由中心から過半を、個人経由給付を可能にするように制度設計するとしている。制度としては成り立つだろうが、企業は業績アップ、企業力アップのための戦力として社員に投資をしている。転職や独立を促すために時間や費用、社の資源を投入しているわけではない。
社員に自立心こそ生まれるが、愛社精神や社への依存心は薄れ、社員の一体感も薄れることが考えられる。岸田政権で生まれる「新しい資本主義」で「労働市場の流動化」は経営者からは社員が営利活動に使い勝手の良い『駒』として使い捨てにされるリスクも否定できない。終身雇用や年功序列は日本型経営の経営上の利点のみでなく、チームワークや思いやりの醸成にも役立ってきた。それも変わっていくだろう。岸田政権の「新しい資本主義」のデメリットも検証していくことが必要だ。(編集担当:森高龍二)