これからの電力制御を担う新たなパワー半導体材料として、炭化ケイ素(シリコンカーバイド、SiC)や窒化ガリウム(GaN)の採用が進んでいる。特に電子の移動速度が速いGaNは、素早いスイッチングが求められる高周波で動作するアプリケーションに適しており、例えば、自動運転車や産業機器、社会インフラ監視用途などに採用されているLiDARのさらなる精度向上にも欠かせないものといわれている。また、インダクタなどの周辺部品の小型化にも貢献する上、電力損失が小さく、発熱量も比較的少ないので、これから各方面で従来のSiデバイスからの置き換えも加速しそうだ。
しかし、GaNパワー半導体の本格的な普及に向けては、まだクリアしなければならない課題が残っている。例えば、ゲート駆動電圧のしきい値が低いためにノイズに弱いという弱点がある。このノイズの影響を小さくするためには高度な回路設計が必要となる。つまり、単純にSiデバイスをGaNデバイスに置き換えればいいというわけではないのだ。
また、GaNデバイスの駆動制御を行うゲートドライバICなども、GaNの特性を引き出すものでなければ、秘められた性能を存分に発揮することはできない。
日本企業では、株式会社タムラ製作所やローム株式会社、株式会社東芝<6502>などが、このゲートドライバICの開発に注力しているが、その中でも急浮上しているのがロームだ。同社は、高品質なアナログ技術を持つことでグローバルな評価を得ている企業だが、近年はGaNデバイスやSiCデバイス及びその周辺を支える電子部品の開発に力を入れている。
そんな同社が2023年9月に発表した最新の超高速ゲートドライバIC「BD2311NVX-LB」は、GaNデバイスの性能を最大限に引き出す高速スイッチング(最小ゲート入力パルス幅1.25ナノ秒)を実現したもので、LiDARやデータセンターなどの小型・省エネ化に貢献するゲートドライバICとして、大きな注目を集めている。
同製品は独自の駆動方式を採用することで、これまで非常に難しいとされていたゲート入力波形のオーバーシュートを抑制する機能も搭載。過電圧入力によるGaNデバイスの故障を防ぎ、同社のGaNデバイス「EcoGaN™」と組み合わせて構成することで、セット設計の容易化を実現するとともに、アプリケーションの信頼性向上にも寄与する。さらに、ゲート抵抗を調整することで、アプリケーションによるさまざまな要求にも対応でき、最適なGaNデバイスを選定することが可能だという。
現在、パワー半導体の需要拡大に伴ってゲートドライバIC の市場も拡大している。Report Oceanの市場調査レポートによると、ゲートドライバICの世界市場は、2030年まで年平均成長率5%以上で推移し、2030年には17億7000万ドルの市場規模に成長するという。日本の半導体メーカーの動きも活発になってきているなか、最盛期には5割を超える世界シェアを誇った日の丸半導体の巻き返しに期待が高まる。(編集担当:今井慎太郎)