崩れ行く「武器輸出三原則」

2013年03月02日 17:52

en0108_05

武器輸出三原則は平和国家の立場から国際紛争などを助長することを回避するために政府が定めた方針だ。

 菅義偉官房長官が1日、次期主力戦闘機Fー35の製造に係わる国内企業の参画について「わが国の安全保障に大きく資する」との判断を示し、国内企業が製造するF-35の部品が日本以外のF-35ユーザー国に供給されることに対して「米国政府の一元的な管理の下、厳格な管理が行われることを前提として、武器輸出三原則などによらないこととする」と例外扱いすることを発表。これまでの例外幅をさらに拡大した。

 小野寺五典防衛大臣は「ユーザー国の中で部品を供給するシステムが採用されると聞いている。このシステムに入るには今までの武器輸出三原則では入れない」と例外にしたことを評し、「今回のシステムが世界の主流になるとすれば乗り遅れない形でしっかり参画する。それは大事なことだと思っている」と語った。

 しかし、中曽根内閣以来、徐々に例外が設けられ、例外幅が拡大していく中で武器輸出三原則がなし崩しにされてしまう危険性もあり、例外のあり方を検証する必要がありそうだ。

 また、日米同盟の深化と米国の軍再編の中で日本の自衛隊の役割がより米軍活動に照らした色彩を強める可能性が高くなるなか、国内企業の防衛技術の育成・高度化が米軍支援に直結する動きは日米の安全保障面の一体化に拍車をかける道を開くとともに、集団的自衛権の行使に対する解釈変更にも影響を与えかねない。安倍総理は集団的自衛権の行使について「21世紀の国際情勢にふさわしい我が国の立ち位置を追求していく」とより現実路線を走る姿勢を明らかにしている。

 そもそも武器輸出三原則は平和国家の立場から国際紛争などを助長することを回避するために政府が定めた方針だ。共産圏をはじめとして国連決議で武器などの輸出が禁止されている国、国際紛争中の当事国やそのおそれのある国への武器輸出を禁止するもので、その他の地域に対しても「憲法の精神に照らして武器輸出を慎む」としきた。(ここでいう武器は「軍隊が使用するもので、直接戦闘の用に供されるもの」をいう)。

 ところが、昭和58年、日米関係を最重視した中曽根康弘総理の下で日米安全保障条約をベースとして、時の後藤田正晴官房長官が「米軍向け武器技術供与の緩和について武器輸出三原則の例外とする」と官房長官談話を発表し、平成17年にはやはり米国との関係を特に重視した小泉純一郎総理の下でアメリカとの弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産については武器輸出三原則の例外とすることが官房長官談話として発表された。

 さらに野田佳彦総理の下では平成23年に藤村修官房長官が(1)平和貢献・国際協力に伴う案件は防衛装備品の海外移転を可能とする(2)厳格な管理を前提とする(3)わが国と安全保障面で協力関係にあり、その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合を条件とすると「国際共同開発・共同生産への参加と人道目的での装備品供与を解禁とする」談話を発表した。

 そして今回の菅官房長官談話。官房長官談話は「F-35は米国等の9か国によって開発中の最新鋭の戦闘機で、その計画的な取得は我が国の防衛上不可欠である。政府としては、この安全保障会議決定及び閣議了解に基づき、平成25年度以降はF-35の機体及び部品の製造(整備を含む)への国内企業の参画を行った上で、F-35Aを取得することとしている。F-35の部品等の製造への国内企業の参画は戦闘機の運用・整備基盤を国内に維持する上で不可欠であり、我が国の防衛生産及び技術基盤の維持・育成・高度化に資することから、我が国の防衛に大きく寄与するものである。さらに、部品等の世界的な供給の安定化は米国等に資するほか、国内に設置される整備基盤により米軍に対する支援も可能となるため、日米安全保障体制の効果的な運用にも寄与するものである」とした。

 そのうえで「政府は、これまで武器等の輸出については武器輸出三原則等によって慎重に対処してきたところだが、国内企業の参画は我が国の安全保障に大きく資することに鑑み、本システムの下、国内企業が製造若しくは保管を行うF-35の部品等又は国内企業が提供するF-35に係る役務の提供については米国政府の一元的な管理の下で、F-35ユーザー国以外への移転を厳しく制限すること、及び移転は国連憲章の目的と原則に従うF-35ユーザー国に対するもののみに限定されること等により厳格な管理が行われることを前提として、武器輸出三原則等によらないこととする」と述べた。

 しかし、武器輸出三原則は対米国については除外されるのか、米国が紛争当事国になった場合、共同開発するFー35の部品の供給はどうなるのか。武器輸出三原則が日米同盟、日米安全保障の下で、いとも簡単に例外扱いされ、葬りされれるようなことにならないか。集団的自衛権の行使とあわせて、歯止めをどこに設けるのか。

 平和憲法を掲げ、武器輸出を慎み、集団的自衛権の行使についてはできないと世界の中で日本の立ち位置を明確にしてきた日本が、今後も平和先進国家としてその立ち位置を示していくためには「例外」をこれ以上増やすことは避けなければならない。野党からは「例外を認め、武器輸出することは大きな政策転換。武器を売って金儲けする国にしてはならない」(社民・福島みずほ党首)との声もあがっており、国会での議論が求められている。(編集担当:森高龍二)