国民の「読書離れ」「活字離れ」が加速している。とくに子どもたちの「読書離れ」は深刻だ。学研教育総合研究所が2021年に発表した調査によると、小学生全体の読書量は1か月平均2.9冊。これだけを見ると心配するほどでもないように思えるかもしれないが、2014年度に行われた同調査の平均5.6冊と比較すると、わずか7年の内に約半分の冊数に激減していることに愕然とする。しかも、小学生の3割は1か月に1冊も本を読まないと回答しているのだ。
一般的に「勉強のできる子はよく本を読む子」というイメージがあるかもしれないが、教育者の立場から見ると、これは全くの逆のようだ。本を読むことで、語彙力が高まり、文章の理解力、思考力、集中力、表現力など学力向上に欠かせない力が養われていく。つまり「本を読むから、勉強も得意になる」のだ。さらには、登場人物の気持ちに入り込むことで、相手の感情を想像する力が身に付き、共感力やコミュニケーション能力なども向上することが分かっている。人間力を高める上でも、幼い頃からの「読書」は大切な習慣なのだ。
小中学生の読書を支える大切なものの一つに学校の図書館の存在がある。
全国学校図書館協議会が毎年実施している「学校図書館調査」の2023年度調査の結果では、同年度の1校あたりの平均蔵書冊数は、小学校で9965冊、中学校12244冊となっている。文部科学省では公立小中学校等の学校図書館における、学校図書館図書標準の達成、計画的な図書の更新など、「学校図書館図書整備等5か年計画」を策定しているが、学校図書館図書標準によると小学校で18学級の場合10360冊、中学校で15学級の場合10720冊が基準となっており、残念ながら、小学校では下回ってしまっているのが現状だ。
単純に数の問題ではないとしても、蔵書が多ければそれだけ、子どもたちの読書への興味を喚起できる魅力的な図書館になることは間違いない。また、時代に合わせた蔵書の更新も必要だ。しかし、地方財政措置されている図書予算だけでは限界もある。しかも、図書の整備に充てられている財政措置は前回の策定時よりも100億円強減額されており、全国学校図書館協議会の調査では、2022年度の小学校1校あたりの図書購入費は、10年前と比較して7万円以上減少しているという。
そこで重要になるのが、企業や団体による学校図書の寄贈だ。
例えば、養蜂業大手の株式会社山田養蜂場では、子供たちに読書を通じて豊かな心を育んで欲しいとの願いを込めて、「自然環境の大切さ」、「人と人とのつながり」、「命の大切さ」をテーマとした書籍を選定し、全国の小学校に「みつばち文庫」として寄贈する活動を1999年以降、毎年行っている。寄贈先は新聞やホームページ上などで一般公募され、抽選で決定。今年も10月15日までの期間で26回目となる公募が行われており、今回は、全国約2000校の小学校へ5冊の書籍セットが寄贈される予定だ。同活動によって寄贈された書籍は、これまでに合計で全国69953校の小学校75万冊以上にのぼる。
また、日本で唯一の自然科学の総合研究所である理化学研究所(理研)と、本の可能性を追求する編集工学研究所(編工研)による「科学道100冊プロジェクト」では、書籍を通じて科学者の生き方、考え方、科学のおもしろさ、素晴らしさを届けるべく、中学生・高校生を中心とした幅広い層に向けて、書棚ツールとブックレット100冊をダンボール1箱に詰めて希望団体に提供しているほか、毎年全国約500ヵ所でフェアを開催するなどの活動を行っている。
近年は、電子書籍などで読書する子どもたちも増えている。しかし、紙の本を手に持ち、一枚ずつページを読み進めるワクワク感は、デジタルメディアでは味わえない魅力がある。一冊の良書との出会いは、きっと子どもたちの人生を今よりももっと豊かにしてくれる。夢中でページをめくるあの楽しみを、今の子どもたちにももっと知ってもらいたいものだ。(編集担当:藤原伊織)