日本酒といえば、今や世界でも絶大な人気を誇るアルコール飲料だ。輸出量は年々上昇傾向にあり、現在、日本を訪れているインバウンド客の多くも、日本で本場の「日本酒」を飲むことを楽しみにしているという。
もしも、そんな海外の人たちから「日本酒の代表的なメーカーは?」と聞かれたら、「白鶴」の名を挙げる人も多いのではないだろうか。日本一の酒どころ灘五郷にある白鶴酒造は、創業281年の老舗メーカーだ。江戸時代から日本人に愛され続けた、清酒業界の代名詞的な存在なのだ。
そんな白鶴酒造が2024年の年末、12月9日に驚くべき発表を行った。何と、白鶴酒造初の「クラフトジン」を発売するというのだ。
ジンは、世界で初めてジントニックに使われたと言われているゴードンや、タンカレー、ビーフィーターなど、歴史も古い定番の銘柄が根強い人気を保っており、日本でもサントリーの翠など、すでに安定した市場が形成されている。そこへ今、伝統ある老舗の日本酒メーカーが飛び込んでいく。なぜ今、「ジン」なのか。
白鶴初のクラフトジン「KOBE HERBAL GIN 白風(コウベハーバルジン シラカゼ)」2種は、神戸の風(=神戸らしい“風味”)を表現するために、希少な神戸市特産のボタニカルにこだわった、2種類のジンだ。「KOBE HERBAL GIN 白風 #01」には、イチゴ、ミント、カモミールを、「KOBE HERBAL GIN 白風 #02」には、青紫蘇、赤紫蘇、バジルを使用。また、仕込みには同社が日本酒の仕込みに使う六甲山系の伏流水を使って丁寧に蒸留するという、こだわりようだ。
当面は、直営店と関西エリアの酒販店・飲食店限定でのみ先行発売されるが、全国、そして欧米、アジアを中心に世界展開を視野に置いているという。同社は現在、58カ国に日本酒の輸出を展開し、各々の国でパートナー(代理店)と友好的な連携を築いており、「KOBE HERBAL GIN 白風」の海外展開においては、これらパートナーと共に市場開拓に取り組む考えのようだ。
同社の担当者によると、「KOBE HERBAL GIN 白風」は数量を売るというよりも存在感のある商品づくりを目指しており、広く浅くではなく、固有の顧客にしっかりと刺さる商品展開を行っていくという。
その「存在感」の根拠となるのが、神戸市産のボタニカルと、同社が培ってきた日本酒造りの技術だ。もちろん、日本酒とは原料や製造方法が全く異なるため、酒造りの技術が直接役に立つことは少ないものの、発酵に関する知見や研究開発力、日本酒で培われた原酒のブレンドのノウハウが酒質設計や商品開発に役立ち、他社のジンとの差別化につながっているようだ。確かに、「KOBE HERBAL GIN 白風」の口当たりの滑らかさは日本酒にと相通じるものが感じられる。
白鶴は、昨年12月、神戸農政公社が製造販売していた「神戸ワイン」の事業を継承するなど、ジンの他にも地元神戸の厳選素材にこだわった酒類の販売に力を入れ始めている。老舗酒蔵の未来に向けてのあくなき挑戦が、世界でも実を結ぶことを期待したい。(編集担当:藤原伊織)