近年、サーマルプリンターの需要が急速に増加している。家庭やオフィスで一般的に使用されているインクジェットプリンターやレーザープリンターとは異なり、レシート印刷等に使われるサーマルプリンターは、熱されると発色する感熱紙や熱によって融解する熱転写リボンを用いてテキストや画像を印字する。インクやトナーが不要でインク切れの心配がないことや、ランニングコストが安くて省エネルギーであること、印刷速度が速いことなどから、小売業や物流業、製造業、ヘルスケア分野などで広く活用されているが、最近は海外向けECの発展に伴うインボイスや税関ラベルの需要の増加、医療機関でのスマートラベルや処方箋、薬剤説明書などの印刷ニーズの高まりなどを背景に市場がさらに拡大している。
360iResearch社の市場調査によると、サーマルプリント市場の2023年の市場規模は408億8,000万米ドルで、2024年には429億6,000万米ドルに達すると予測されており、CAGR 5.27%で成長し、2030年には585億9,000万米ドルに達すると見込んでいる。
中でも注目されているのが、持ち運びやすさやメンテナンス性が高いモバイルプリンターだ。とくに中国を中心としたアジア市場では、A4サイズ対応のサーマルプリンターの需要が伸びており、それに対応する高性能で耐久性の高い8インチのサーマルプリントヘッドが求められている。
同じプリントヘッドでも、インクジェット式やレーザー式のプリンターのそれはインクやトナーを紙に噴射する部品であるのに対し、サーマルプリンターのプリントヘッドは微細なヒーターを使用して感熱紙や熱転写リボンに印刷するための部品だ。印刷品質に直に影響する、サーマルプリンターの心臓部と言っても過言ではないだろう。
しかし、A4サイズ対応のモバイルプリンターは、レシートプリンターなどのより小型プリンターに比べて印字幅が広いため、バッテリー容量が多く必要となり、消費電力の増加が課題となっている。また、A4サイズの広い印字幅をカバーするために複数のドライバICで発熱体を制御する必要があるため、各発熱体との配線の長さの差により発熱量にばらつきが生じ、印字の発色などの均一性に影響を与える問題があった。
そんな中、ローム株式会社が1月23日に発表したA4サイズ(横幅210mm)モバイルプリンター向け小型サーマルプリントヘッドが、サーマルプリンター市場で大きな衝撃を与えている。同社が開発した8インチサーマルプリントヘッド「KA2008-B07N70A」は、業界トップクラスの細さで省エネと高精細印字を両立した製品だ。縦幅は従来品比約16%も小型化した業界トップクラスの11.67mmで、プリンター全体の省スペース化に貢献する。また、発熱体構造を最適化してドライバICや配線レイアウトを改善することで、印字するために必要な印加エネルギーを従来比約66%も低減(条件:印字速度50mm/秒)した7.2Vを実現しており、リチウム電池2セル駆動に対応している。そのうえ、発熱体の個別配線を調整して発熱量を均一化することで印字品質を安定化し、最高印字速度100mm/秒の高速印字においても鮮明な印字画質をも実現しているのだ。さらに新製品は、感熱方式と熱転写方式の2つのサーマル印字方式に対応し、さまざまな用途での印字が可能。温度変化による膨張や収縮の影響を軽減するように構成されているので、A4サイズプリンターに求められる高耐久使用に最適なプリントヘッドとなっている。
同社では、2025年春に解像度300dpiの新製品の開発を予定しており、今後もA4サイズ対応モバイルプリンター向けの、高速印字・高効率化を実現したラインアップの拡充を予定しているという。サーマルプリント市場が世界的に急成長する中、日本の優れた技術力で存在感を示してほしい。(編集担当:今井慎太郎)