身寄りのない高齢者時代へ 行政が直面する「支える人がいない」現実

2026年07月22日 09:33

今回のニュースのポイント

総務省が公表した成年後見制度の利用促進に関する調査は、制度運用の課題だけでなく、日本社会が「家族が支える時代」から「社会全体で支える時代」へ移行しつつある現実を浮き彫りにしました。身寄りのない高齢者の増加に伴い制度の利用ニーズは高まる一方、多くの自治体では支援を必要とする人の実態把握が十分に進んでいません。人口減少が進む中、行政や地域、専門職が連携し、必要に応じてデジタル技術も活用した新たな支援体制の構築が求められています。

本文
 「家族が支える」ことを前提としてきた日本社会の構造が、変わりつつあります。総務省が公表した「成年後見制度の利用促進に関する調査結果報告書」は、認知症や知的・精神障害などにより判断能力が十分でない人を支える成年後見制度の現状を検証したものです。しかし、その内容から浮かび上がるのは制度そのものの課題だけではありません。少子高齢化や人口減少が進む日本で、「支える人がいない社会」が現実となりつつある姿です。

 成年後見制度は、判断能力が十分でない人に代わり、家庭裁判所が選任した後見人が財産管理や契約手続きなどを支援する制度として2000年に創設されました。利用者は令和7年末時点で約26万人に達しています。総務省は報告書で、身寄りのない高齢者の増加が見込まれ、成年後見制度の利用ニーズは一層高まるとの見方を示しています。

 この一文が示しているのは、日本社会の前提条件が大きく変わり始めているという事実です。これまでは、認知症となった親の財産管理や介護施設への入所契約などを子どもや親族が担うことが一般的でした。しかし、少子化や未婚化、単身世帯の増加によって、その役割を担う家族がいないケースは今後さらに増えていくことが見込まれています。

 つまり、日本は「家族が支える社会」から、「社会全体で支える社会」へ移行する時代に入ったと言えます。

 その一方で、行政側の準備は十分とは言えません。調査によると、成年後見制度の利用ニーズを「把握している」と回答した市区町村は14.5%にとどまり、85.5%は把握していないと回答しました。また、把握していない自治体のうち55.6%は「必要性を感じているが、把握方法や手順が分からない」と回答しており、制度の必要性を認識しながらも、誰に支援が必要なのかを把握する仕組みが十分整っていない実態が明らかになりました。

 これは成年後見制度だけの課題ではありません。介護や医療、福祉、地域包括ケアなど、人口減少社会では支援を必要とする人を早期に把握し、必要な制度へつなげる行政の役割はこれまで以上に重要になります。一方で、自治体では人手不足や業務負担の増加が続いており、従来の体制だけで対応し続けることは容易ではありません。

 そこで期待されるのが、行政DXやデジタル行政の推進です。近年、政府は行政手続きのデジタル化や行政DXを進めるとともに、AIの活用環境の整備も進めています。人口減少による人手不足が深刻化する中、行政サービスの質を維持するためには、デジタル技術の活用が欠かせないとの認識が広がっています。

 成年後見制度を巡る業務でも、将来的には、AIを制度案内や必要書類の作成支援、相談内容の整理などに活用する余地があります。行政サービスを支える手段の一つになる可能性があります。一方で、成年後見制度の本質は、人の権利と尊厳を守ることにあります。本人の意思を尊重しながら財産管理や生活支援を行う判断は、AIだけで代替できるものではありません。最終的な意思決定や責任は人が担うという原則は、今後も変わらないでしょう。
こうした考え方は、「人間中心AIコンソーシアム」が掲げる理念とも重なります。AIは人を置き換えるのではなく、人を支えるための技術として活用する。その考え方は、高齢化社会における行政サービスのあり方にも通じています。

 近年は行政DXやデジタル行政、AI活用など、一見すると異なる政策が進められています。しかし、それらに共通するテーマは、「人口減少社会でも持続可能な社会をどう築くか」という問いです。総務省の今回の調査は、成年後見制度の利用促進という制度論にとどまらず、日本社会が「家族が支える社会」から「社会全体で支える社会」へ移行しつつある現実を映し出しています。行政、地域、専門職、そしてデジタル技術をどのように組み合わせながら支える社会を設計していくのか。人口減少時代に対応した支援体制を、社会全体でどう構築するかが問われています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)