今回のニュースのポイント
国土交通省が公表した最新の「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」によると、令和7年度の元請受注高の合計は16兆4,104億円に達し、対前年度比で18.7%の大幅増を記録しました。住宅に係る工事が4兆9,033億円(同18.7%増)、非住宅建築物が11兆5,071億円(同18.6%増)となり、いずれも前年度を大きく上回る活況を見せています。市場をけん引しているのは華やかな全面リノベーションではなく、既存ストックの価値を維持するための改修や修理、あるいは設備更新といった実需に基づく投資です。日本の住宅経済の重心は「建てること」から「長く使い続けること」へと移りつつあり、本格的なストック型社会への構造転換を映し出しています。
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日本の建設・不動産市場において、既存の建物を手入れして活用する「ストックビジネス」の存在感が決定的なものとなっています。国土交通省が発表した令和7年度の建築物リフォーム・リニューアル調査報告によると、同年度に元請けとして受注されたリフォーム・リニューアル工事の総額は16兆4,104億円に上り、前年度から18.7%もの急成長を遂げました。
分野別に見ても、住宅向けが4兆9,033億円、工場や事務所などの非住宅向けが11兆5,071億円となっており、双方が足並みをそろえて18%台という高い伸び率を示しています。四半期ベースの動きを追っても、直近の第4四半期だけで3兆7,037億円(対前年同期比10.3%増)を叩き出しており、市場全体の底堅い拡大基調は一過性の流行ではないことを行政統計の確かな数字が裏付けています。
この市場拡大の背景にあるのが、「建てる住宅市場」から「使い続ける住宅市場」への急激なパラダイムシフトです。これまでの日本の住宅経済は、新築住宅の供給拡大を成長の主軸とする「フロー型」のビジネスモデルに依存してきました。しかし、人口減少や世帯数の頭打ちが現実のものとなり、既存の住宅ストックが過剰になるなかで、限られたパイを新築だけで奪い合う時代は変化を求められています。新築の着工件数が抑制される一方で、膨大な過去の建築資産をどのように維持管理し、長寿命化させていくかという需要が年々蓄積されてきました。リフォーム受注高が16兆円を突破したことは、日本の住宅市場の成長軸が既存ストックの維持・性能向上へとシフトしつつある流れを象徴しています。
興味深いのは、この巨額の市場を底支えしている需要の「中身」です。メディアやSNSなどでは、古民家をモダンに生まれ変わらせる全面的な「リノベーション」や「一部改築」といった華やかな工事が注目されがちですが、統計が示す実態は異なります。
令和7年度の工事種類別の内訳をみると、住宅向けでは「増築」が338億円(対前年度比39.0%減)、「一部改築」が1,316億円(同8.8%減)と縮小傾向にあります。一方で、市場の圧倒的な主役となっているのは、機能や耐久性の向上を意図した「改装・改修工事」の3兆8,164億円(同17.4%増)、および壊れた部位の交換や修理を担う「維持・修理工事」の9,215億円(同35.4%増)です。非住宅分野でも同様に「改装・改修、維持・修理工事」が10兆9,099億円(同20.0%増)と突出しており、社会全体のインフラを日常的にメンテナンスし、壊れた部分を直して使い切るという、極めて現実的な実需が市場の爆発的な原動力となっています。
こうした維持・修繕需要の拡大をさらに具体化しているのが、生活インフラに直結する「設備更新」への投資です。工事部位別の受注件数を精査すると、住宅分野では「給水給湯排水衛生器具設備」が615,133件(対前年同期比41.1%増)と最も多く、次いで「内装」が345,209件(同19.7%増)と続いています。非住宅分野でも「電気設備」が239,348件(同58.9%増)、「給水給湯排水衛生器具設備」が167,784件(同77.0%増)と驚異的な伸びを見せています。
老朽化した配管や水回り、電気系統の刷新、あるいはエアコンや給湯器といった熱源設備の交換は、生活や事業を継続するための「待ったなし」の必要経費です。これらに加えて、直近の第4四半期における工事目的として「省エネルギー対策」が住宅で84,200件(同16.5%増)、非住宅で65,473件(同27.6%増)と確実に増加している点も見逃せません。これらは単なる修繕を超えて、高効率な設備へのリプレイスを通じてランニングコストを抑え、脱炭素社会に対応するための前向きな仕様変更として位置付けられています。
このような投資行動の変化は、日本人が住まいや建築物に対して抱く価値観が「消費」から「資産防衛」へと進化したことを意味しています。かつて住宅投資といえば、多額のローンを組んで新築の戸建てやマンションを「購入する」行為そのものを指していました。しかし、現在では購入した住まいの価値をいかに目減りさせず、快適な性能を維持しながら住み続けるかという長寿命化への投資へと、人々の発想が切り替わっています。
実際に発注者別の動きをみても、住宅分野では「個人」が3兆769億円(対前年度比16.4%増)と最大ですが、マンション等の「管理組合」による発注も9,538億円(同29.8%増)と急拡大しており、集合住宅における計画的な大規模修繕や資産価値維持への意識の高まりが数字に如実に表れています。住まいは建てて終わりではなく、時代に合わせて「育て、維持する資産」であるという共通認識が、市場の構造変化をより確固たるものにしています。
人口減少、脱炭素の要請、進行する既存建築物の老朽化という複数の社会的変化が交錯する現代において、このストック型社会への移行は、今後の住宅産業における重要な成長軸の一つとなりそうです。リフォーム・リニューアル市場の16兆円突破というマクロデータは、単に特定の業界が潤っているという一時的なニュースではなく、日本の国土と経済がよりサステナブルで成熟したフェーズへ根底から変化しつつある現実を物語っています。住宅をめぐる社会の仕組みが大きく塗り替えられるなかで、スクラップ・アンド・ビルドを前提とした成長モデルに加え、既存ストックを活かす発想をどう社会に定着させるか、産業全体の次なる智慧が問われています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













