AI導入の次に問われるもの 企業の知識を「資産」に変えられるか

2026年07月26日 08:59

画・世界企業の98%か_AI活用に着手。AI活用ヒ_シ_ョンの策定は16%。

生成AIの導入は企業で急速に進む一方、社内データの活用や業務プロセスの見直しなど、組織全体の変革につなげられるかが課題となっている。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

総務省の情報通信白書では、日本企業の86.4%が何らかの業務で生成AIを利用していると回答しました。一方で、生成AIを活用した組織的な業務変革に取り組んでいない企業も約3割あり、社内データ整備やAI活用に必要なスキル習得環境も海外より遅れています。AIの導入は進んでも、企業変革はこれからが本番であることが浮かび上がりました。

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 日本企業における生成AIの導入は、この1年で目覚ましい広がりを見せています。しかし、AIという新たなテクノロジーを「業務に導入すること」と、「企業の組織や働き方が本質的に変わること」は同義ではありません。総務省が公表した最新の情報通信白書は、日本企業においてAIの試用・導入段階が進む一方で、それを組織的な変革や強みに結びつける上での大きなギャップが存在している実態を浮き彫りにしました。

 まず、企業における生成AIの活用状況に関する数字を確認します。自社の何らかの業務で生成AIを利用している日本企業の割合は86.4%に達し、前年調査の55.2%から大幅に上昇しました。米国(90.9%)やドイツ(91.6%)といった諸外国との差も大きく縮まっており、数字の上では日本企業のAI導入は順調に進んでいるように映ります。

 しかし、今回の調査で本当の核心となるのは「AIを何に使っているか」という用途の中身です。

 業務類型ごとの活用状況を見ると、日本企業で最も割合が高いのは「議事録・メール作成補助」で約7割(68.9%)にのぼり、導入効果を実感する割合も72.3%と突出しています。一方で、研究・商品開発や製造、営業、経営判断といった基幹的な業務での活用率は相対的に低い水準にとどまっています。つまり、現状の日本企業におけるAI活用の中心は、個々の従業員による作業の効率化や補助的な利用が主流であると言えます。

 AI活用を個人の効率化から「組織的な業務変革」へと引き上げようとしたとき、日本企業は明確な課題に直面します。

 白書によると、生成AIによる業務変革について「組織的な取り組みはない」と回答した日本企業は27.0%と約3割に達し、米国(1.4%)やドイツ(4.9%)と比べて顕著に高い割合を示しました。さらに、変革に向けた環境整備においても課題が際立っています。「業務プロセスの見直しやスキルを学ぶ環境がある」と答えた日本企業は26.1%(米国は62.7%)、「AIに社内データを学習させたり参照可能なデータベースを構築している」は15.3%(米国は57.2%)にとどまるなど、社内データの整備や人材教育、AI技術基盤の構築において海外企業に比べ整備が遅れているのが現状です。

 こうしたギャップを乗り越える上で、今回の白書が提示する最も重要な視点が「AIに対する位置づけの転換」です。

 有識者コメントとして取り上げられている国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、企業経営者はAIを単なる人件費抑制などの「コスト削減ツール」としてではなく、現場のノウハウや知見を蓄積して価値を高めていく「無形資産」として捉えるべきだと指摘しています。個人の頭の中や現場に閉じていた暗黙知をAIに学習させ、組織全体で共有・活用できる仕組みをつくることで、使えば使うほど企業の知見が蓄積され、時間とともに価値が高まるような自社固有の知識資産を構築できるかどうかが問われています。

 白書で紹介されている先進企業の取り組みからは、こうした「知識の資産化」に向けた共通の方向性が見えてきます。成果を上げている企業では、経営層が強い危機感を持ってAI前提の働き方へシフトする方針を明確にし、単なる作業の自動化ではなく、人間とAIの役割分担を再設計した上で、社内データやシステムとの連携を進めています。また、DX推進部門が現場に寄り添って課題解決を伴走支援し、全社的なスキルの底上げや利用ガイドラインの整備を一体で進めている点も共通しています。

 今後の企業間における競争の軸は、「AIを導入したかどうか」という初期の問いから、「AIを活用して社内の知識や組織プロセスをどう再構築したか」という実行力の差に移っていきます。生成AIの導入率86.4%という数字は、変革のスタートラインに立ったことを意味するに過ぎません。社内データの整備や業務フローの抜本的な見直し、人への投資を伴う人材育成まで踏み込み、自社の知識資産を競争力へ結び付けられるかどうかが、これからの企業成長を左右することになりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)