実質賃金1.6%増でも業種間に差 8月の毎月勤労統計、所定内給与と共通事業所から読む

2026年10月23日 12:15

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都市部を行き交う人々。2026年8月の実質賃金は前年同月比1.6%増となった一方、産業別の賃金上昇率には大きな差が見られた。(資料画像)

今回のニュースのポイント

厚生労働省が10月23日に発表した2026年8月の毎月勤労統計調査(確報)では、実質賃金が前年同月比1.6%増となり、物価の上昇率を上回る賃金伸び率が確認されました。基本給を中心とする所定内給与も3.8%増と底堅く推移しています。一方、前年と比較可能な共通事業所ベースでは現金給与総額が2.8%増にとどまるほか、産業別では7%台の伸びを見せる業種から前年比マイナスとなる業種まで大きな開きが生じており、平均値の改善と賃上げの広がりの差が明確になっています。

本文
 厚生労働省が2026年10月23日に発表した2026年8月の毎月勤労統計調査(確報、事業所規模5人以上、調査産業計)によると、物価変動の影響を差し引いた1人当たりの実質賃金は前年同月比1.6%増となりました。実質賃金の上昇は、平均的な名目賃金の伸びが物価上昇率を上回り、賃金の購買力が前年同月を上回ったことを示しています。しかし、この全体平均のプラスという結果が、すべての産業や個々の労働者において同じ割合で賃金環境が改善したことを意味するわけではありません。

 賃金の構造的な伸びを把握する上で重要となるのが、給与の内訳です。名目賃金に当たる現金給与総額は前年同月比3.9%増の31万1,563円となりました。この内訳を見ると、基本給などを指す「きまって支給する給与」が3.9%増の29万8,317円となり、そのうち「所定内給与」は3.8%増の27万7,870円でした。また残業手当などの「所定外給与」は4.9%増の2万447円、賞与などの「特別に支払われた給与」は1.8%増の1万3,246円となりました。一時金だけでなく所定内給与が堅調に推移していることが、名目賃金全体の底上げを支えています。

 名目賃金の上昇と物価上昇率との関係を見ると、実質賃金の算出に用いられた消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は前年同月比で2.2%上昇しました。名目賃金の伸び(3.9%増)が物価上昇率を上回ったことで実質賃金は1.6%増とプラス幅を維持したものの、前月7月の2.0%増からは伸び率が0.4ポイント鈍化しています。なお、国際比較などで参照される「総合CPI」で実質化した参考系列の実質賃金は前年同月比2.0%増(実質化CPIは2.0%上昇)となっており、指標の定義による違いを把握しておく必要があります。

 今回の統計において賃金の上昇幅をより多角的に読み解く手がかりとなるのが、「共通事業所」による集計データです。前年同月と当月の両方で回答した「共通事業所」ベースの現金給与総額は前年同月比2.8%増となり、調査対象全体の3.9%増を下回りました。同様に所定内給与も、全事業所集計の3.8%増に対して共通事業所では3.1%増となります。共通事業所集計と調査対象全体の集計は対象事業所が異なるため、両者を比較することで賃金動向を複数の角度から確認できます。ただし、その差だけで賃金上昇率の過大評価や、個々の労働者の賃上げ率を判断することはできません。

 また、産業別の動向を観察すると、賃金の伸び率には著しい濃淡が見られます。現金給与総額の前年同月比では、金融業・保険業が7.3%増、情報通信業が5.3%増、製造業が5.2%増と、全体平均を上回る高い伸びを示しました。医療・福祉も4.0%増、卸売業・小売業が3.7%増、建設業が3.2%増で推移しています。これに対し、飲食サービス業等は2.0%増にとどまり、生活関連サービス業等においては前年同月比1.7%減とマイナスに転じました。産業別の数値は各産業における平均給与の変化を示しており、労働者構成や特別給与などの違いも考慮する必要があります。同じ労働者の賃上げ率を直接比較したものではありません。

 就業形態による賃金水準と伸び方の違いも無視できません。一般労働者の現金給与総額は前年同月比4.0%増の40万899円(所定内給与は4.0%増の35万3,971円)となったのに対し、パートタイム労働者の現金給与総額は4.4%増の11万6,155円(所定内給与は4.4%増の11万1,410円)でした。パートタイム労働者の時間当たり所定内給与を見ると、前年同月比4.7%増の1,478円と着実な上昇を示しています。月額での支給額と時間当たりの単価とでは指数の表れ方が異なっており、就業時間や働き方に応じた分析が求められます。

 2026年8月の毎月勤労統計確報は、実質賃金がプラスを維持し、基本給に相当する所定内給与も着実に増加している事実を示しました。しかし同時に、共通事業所ベースでの伸び率は全事業所の集計より抑制された水準にあることや、産業間で賃金増加率に7%台からマイナスまで大きな隔たりが存在することも浮き彫りになりました。マクロの平均値で示される購買力の改善と、ミクロの集計方法や業種ごとに異なる賃金改定の実態という二つの側面を把握することが、企業の人件費動向や家計の消費余力を客観的に推計する上で極めて重要になります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)