5月23日、フォード・オーストラリアは、豪州での自動車生産を2016年10月をもって打ち切ると発表した。豪ドル高に伴い、輸入車との価格競争で苦戦、昨年度は、税引き後で1億4100万豪ドル(132億円)の損失を計上した。過去5年間の累積赤字は6億ドル(590億円)に達している。 フォードは現在ビクトリア州に二つの工場を構えているが、共に閉鎖になり、メルボルンの北約15キロに位置するブロードミドーズ工場の650人、南西約 70キロに位置するジーロング工場では510人の従業員が失職する。下請け部品会社への影響は大きく、豪州の自動車産業で働く労働者約5万人のうち、1万 人近くの雇用が影響を受けると見られている。
フォードは1925年にオーストラリアへ進出、ジーロングでT型モデルの生産を開始した。 1956年にはブロードミドーズの土地を購入、1960年からはファルコンの生産を開始した。マツダと提携後は、レーザーをシドニー西郊のホーム・ブッシュ工場で生産したが、1994年に工場が閉鎖となり、日本からの輸入に切り替えている。なお、工場閉鎖後も、豪州でのフォード車販売は継続され、 2016年までに車種のラインナップを、現在より30パーセント充実させるとしている。
23日の発表を受け、連邦政府、州政府は失職する労働者への支援を表明した。予算を配分、州立専門学校での新技能獲得を後押しするとしている。フォード工場の閉鎖で、特にジーロング市の経済と雇用が打撃を受けるため、ビクトリア州政府は雇用対策として、政府障碍保険機構本部の誘致を連邦政府に働きかけている。
連邦与党労働党の一部議員は、現在5パーセントに設定されている輸入車の関税は 低率であり、「エコノミー・ナショナリズム」が少し必要な時期として、最低10パーセントの課税を主張している。もっとも、ジュリア・ギラード豪首相は関税引き上げを直ちに否定、豪州の法人税は低く抑えられており、関税の引き上げは豪州向け自動車輸出国との貿易に影響する、と付け加えている。
一方の連邦野党、トニー・アボット自由党党首は、自動車メーカーはもっと輸出を考えるべきだとし、同時に、産業界は低税率、規制緩和、電気料金値下げを望ん でいるとして、炭素税を批判した。これに対し、貿易大臣のクレイグ・エマーソン氏は、自動車製造の主な材料となる、アルミ、鋼鉄、ガラス、プラスチックには炭素税非課税の措置が取られていると反論している。自動車業界には、毎年100億円以上の補助金が投入されているが、緑の党のアダム・バンディット氏は、電気自動車開発、高速鉄道網への投資を主張している。
三菱自動車が南オーストラリア州アデレードでの自動車生産を打ち切ったのが 2008年3月で、タイヤメーカーのブリヂストンも、三菱自動車に追随するかのように、1965年設立したアデレード工場を2010年4月に閉鎖、現地生産から撤退した。フォードの撤退により、2016年10月以降、オーストラリアで自動車を生産するメーカーは、GMホールデンとトヨタの二社のみとなる。(編集担当:轟和耶)