シニアライダーの増加や、消費者ニーズを捉えた新商品の投入などで、国内の二輪市場は、ここ数年回復の兆しを見せている。日本自動車工業会のデータによると、2012年の二輪車国内総需要は、44万2000台(前年比99.4%)で、13年は44万6000台(前年比100.8%)の予想となる。
メーカーの販売台数から見てみると、ホンダ<7267>の二輪事業における販売台数は、2011年が累計1506万台で、12年は1549万台とプラス2.9%とわずかながらも増加している。ただ、驚くことに、そのうちの1300万台が急成長を遂げているアジア市場向けだ。
アジア市場の中でも特に成長著しいのがインドで、2012年の二輪市場の年間需要が約1400万台(サイアム データ)と言われており、今や中国を抜いて世界最大の二輪マーケットとなった。これは人口増加によって、スクーター需要の伸びや、女子学生や働く女性の都会の足となる、小型モビリティの需要が増えたことが大きい。
ヤマハ発動機<7272>は昨年9月に女性向けスクーター『シグナス・レイ』を発売、インドスクーター市場に初参入した。続いて今回、インド市場向けスクーター第二段でもある男性バージョン『シグナス・レイZ』を投入した。115cc空冷4ストロークエンジンといった基本コンセプトは同じながらも、スモーク仕上げのバイザーやアグレッシブなグラフィック、カーボン繊維パターンシートカバーを採用するなどして、よりスポーティなデザインに仕上げている。
5月24日にインド国内で行なわれた新モデルの発表会では、「エンジンの回転を上げるように。心躍る瞬間、そして最高の体験を、YAMAHAと出会うすべての人へ届けたい。」という、同社新ブランドのスローガンである“Revs your Heart(レヴズ ユア ハート)”を日本の本社からかけつけた柳社長が説明。続けて「世界中のお客様の生活を豊かにするような製品を造り、そして届ける事が使命だと思っている。新製品のおかげで直近の販売は22%の伸張を記録した。インドはヤマハ発動機のビジネスで最も重要な市場のうちの1つとなっている。今後、インドに向けてさまざまな形で投資をしていく」と意欲を語った。
インド二輪車市場は約95対5の割合で男性ユーザーが圧倒的に多いという。昨年発売の「シグナス・レイ」は女性をターゲットに開発されたが、現地では黒や白など男女を問わないカラーのものがよく売れており、男性にも好評らしい。インドでは家族単位でバイクを使用することが多く、妻が乗ることを想定してコンパクトで扱いやすい「シグナス・レイ」を選んだ、というケースも見られるという。
同社はインド市場において、まずトップエンドのカテゴリーを狙った高付加価値のスポーツモデルを投入し、顧客満足度の高い販路の構築と合わせて他社と差別化を図りながら、ブランド価値を高めるという戦略を取ってきた。その後参入したスクーター市場では、その高いブランド価値を利用しながら、シグナス・レイZが48,555ルピーと、大体4万~5万ルピーと言われる一般的な価格帯で勝負している。現在、新工場をインド南部に建設中で、今後は順次スクーターのラインナップを増やすとのこと。拡大するスクーター市場での確固たる位置を占める切り込み隊長としても、「シグナス・レイ」「シグナス・レイZ」の担う役割は大きい。
二輪メーカー各社が新興国での販売に力を注いでいるなか、2012年は中国の反日運動やタイの洪水があり、メーカーは大打撃を受けた。これからは地政学リスクの少ない、世界最大の二輪車市場であるインドに、販路や生産をシフトしていく流れは当分続くだろう。(編集担当:鈴木博之)