現代によみがえった「家守」とは?

2013年07月06日 19:57

 江戸時代、主人不在の家屋敷を預かり、その管理・維持に従事する「家守(やもり)」という職業があった。遊休不動産が増え、中心市街地の疲弊と衰退が進む昨今、現代でもこの家守の精神が見直されている。日本政策投資銀行などが中心となって、中小オフィスビル等の空室を従来とは異なる用途へ改装・改修したり、そこへ一定のコンセプトのもと、地域に活力を与えるテナントを誘致したり、さらにそのテナントに対して各種経営支援やサポートを行ったりすることで、地域の活性化を図る民間事業者を現代版の家守と位置付けて、様々な活動を行っている。

 また、財団法人まちみらい千代田などでも、地域プロデューサーを育成するための講座「家守塾」を開講するなど、現代版家守に対する期待と注目が高まっている。

 経済産業省中心市街地活性化室が行う「街元気サイト」内にも、現代版家守として東京・神田や北九州・小倉などで中小の空きビルを新たな産業創出の場に作り替え、エリア再生を行う事例が紹介されている。不動産オーナーとともに包括的にエリアのプロデュースを行うことで、衰退する町に歯止めをかけ、変化をもたらそうとする試みが盛んになりつつある。

 一般的には「家守=リノベーション」というイメージが強いようだが、都市型産業を育成して雇用創出を行い、トータルでエリア価値を向上させていく、前向きな新しいビジネスモデル「家守事業」ともいえるだろう。

 また、同じ家守でも、空いた不動産を活用する家守ではなく、文字通り真摯に「家を守る」現代版家守もある。中堅の住宅メーカーであるアキュラホームは「永代家守り」と銘打って、自社で建てた家主への訪問を行っているが、これが実に個性的だ。
 
 もちろん、大手ハウスメーカーの中にも、大和ハウス<1925>や積水ハウス<1928>のように、営業マンやサポートチームが定期点検や定期訪問を実施している企業は珍しくはない。しかし、アキュラホームは、社長以下役員がこれを行っているのだ。しかも、顧客の生の声を知るためにアポなしの訪問も敢行しているというから驚きだ。

 通常の定期点検とは別に、新築の引渡し前の物件から入居後数年の物件まで、無作為に選出して当日連絡のうえ訪問する。建物内外の経年劣化のチェックだけでなく、屋根や小屋裏から床下まで点検して、何か問題があれば、その場で直せるものは、すぐにその場で対応するという。

 社長自らが顧客を訪問することに驚く声も多いが、同社社長の宮沢氏は徹底した現場主義で知られる人物で、つくり手としての責任や入居者との関係構築はもとより、現場から改善点を見出すためにも、社長をはじめ、現場担当者、本社役員が現場に赴いてそれを自分の目で見ることが必要だと考えているそうだ。そういう意味で考えると、アポなしという理由も十分頷ける。

 もちろん、アポなしなので留守の時もあれば断られることもあるが、訪問を了承した入居者は、この取り組みを喜んでいるという。

 かつての土地神話が崩壊し、住宅事情が大きく変容しつつあるとはいえ、それでも家は大きな財産であり、不動産は人々のより所である。街を再活性させるビジネスモデルとしての「家守事業」も、入居者を見守り続ける「永代家守り」も、どちらも我々の居場所を守ってくれる大切な家守なのだ。(編集担当:藤原伊織)