【今週の展望】「雇用統計ショック」からいつ立ち直れるか

2013年08月04日 20:13

 8月2日にアメリカ労働省が発表した7月の雇用統計は、完全失業率は6月から0.2ポイント改善して7.4%で市場予測の7.5%よりも良かったが、非農業部門雇用者数の増加数は6月の当初発表数から3.3万人減の16.2万人で、市場予測の18万人前後を下回った。しかも6月は7000人、5月は1万9000人それぞれ下方修正している。楽観的な見通しも出ていただけにショックは大きそうで、FRBが最重要視する雇用統計の足踏みで、「9月になれば」と言われてきた量的緩和の縮小開始時期は先延ばしが濃厚になった。

 発表後、為替はすかさずドル安で反応し、3日朝方のドル円は99円を割り込んだ。2日のNYダウ終値は30ドル高だったが、一時は69ドル安まで落ち込んでいる。終盤に上昇したのも、経済指標が悪ければ量的緩和縮小が遠のくからありがたいという、このところアメリカ市場で何度も起きていた「学校の成績が悪いと親にほめられる」ような倒錯現象にすぎない。

 一方、東京市場では時価総額が最大で日本を代表する銘柄と言えるトヨタ<7203>の決算が2日の大引け後に発表され、4~6月期の業績こそ市場予測を上回ったが、通期見通しの営業利益は1400億円上方修正しても1兆9400億円で、2兆3600億円の市場予測を4200億円下回った。想定為替レートをドル円90円から92円に改めた上での控えめな見通しなので市場予測とのギャップは致し方ないところだが、おそらく週明け5日の株式市場は市場予測をモノサシにトヨタに対し容赦のない仕打ちに出ることだろう。

 アメリカ雇用統計のネガティブ・サプライズと為替のドル安・円高を受けて、5日の日経平均は先物主導で、1日と2日のローソク足の間にぽっかり141円も空いた「マド」を急落で埋めにかかると思われる。マドの下端は14005円なので14000円台の維持すら危うくなりそうな地合いでは、トヨタはまず助からない。そうやって来週のマーケットは、日米の「市場の暴力」ならぬ「市場予測の暴力」に襲われる事件からスタートしそうだ。

 日経平均が1日、2日の2日間で797円も上昇したのは、満潮の海の波に洗われるのを承知で海岸に急ごしらえの砂山を築いたようなもの。マーケットの海は荒海。向こうの佐渡島ならぬアメリカから来た波にのまれたら、不可解なユーフォリア(高揚感)で築いたもろい砂山は、ただ消え去るのみだ。

 それでもマーケットは夏枯れの薄商いの中、粛々とスケジュールを消化していく。7~8日の日銀の金融政策決定会合も新しいものは何も出ないまま通過しそうで、今週のFOMCやアメリカの雇用統計のような待って様子見するようなイベントとは言えない。市場予測の暴力に脅かされながら主要企業の決算発表は続き、9日に第2のピークを迎える。9日はマイナーSQでもあるが、毎年8月のSQは市場のエネルギーが低下していて波乱なく終わるのが常。さらにその翌週は旧暦のお盆で東京市場はますます閑散としそうだ。それなら日本株はいつ、アメリカ雇用統計のショックから立ち直るきっかけをつかめるのだろうか。

 過去、8月のマーケットでは「凶事」がけっこう起こっている。2年前はS&Pの米国債格下げで大混乱した。6年前は「パリバ・ショック」が起き、サブプライムローン危機が波及して東京市場も暴落した。90年代のロシアの債務危機も、旧ソ連のクーデターも、イラクのクウェート侵攻もみんな8月の出来事だった。バカンスシーズンの閑散期にそんなネガティブ・サプライズが起きるとどうしても対策が後手に回り、立ち直るまで時間がかかる。たとえば2011年8月5日に米国債ショックが起きた後、日経平均終値がその直前の水準に戻るまで6ヵ月以上を要した。

 今回のショックのスケールはそれよりずっと小さいが、次のアメリカの雇用統計が発表される頃まで、少なくとも8月いっぱいは影響が長引くと思われる。その間、決算が良かった中・小型株やテーマ株や超低位株や、名古屋や小倉の某デパートのような「またこいつが出てきた」とあきれさせる〃その筋〃の銘柄などが入り乱れて興亡を繰り返すものの、日経平均は砂山を積んでは外からの波に崩され、あるいは自分で崩しながら、沈滞ムードのまま時間が経過していくことだろう。

 というわけで、来週の日経平均終値の変動レンジは5日に急落した後は一進一退で13800~14300円とみる。15000円アタックは秋風が吹くまでお預けだ。(編集担当:寺尾淳)