最年少ライダーが鈴鹿8耐を完走

2013年08月04日 19:39

藤田選手

この笑顔に女性ファンも多いが、みんなに愛される魅力をもっているのも、プロのトップライダーとしての重要な資質。

 今年の第36回鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)は、MuSASHi RTハルク・プロが214周を走破し優勝した。また3位に入賞を果たしたTeam KAGAYAMAからは、往年の名選手であるケビン・シュワンツ選手が、21年ぶりに鈴鹿8耐に帰ってきて参戦したのも話題となった。

 ちなみに鈴鹿8耐とは、1978年から開催されている、国内の二輪レースではもっとも古くから続くビッグイベント。1チームにつき2~3名の選手が1台のマシンを交代しながら、真夏の鈴鹿サーキットを8時間ぶっ続けで走る耐久レースで、FIM世界耐久選手権シリーズ第2戦にあたる。プライベーターからメーカーのワークスチームまで参戦しているため、選手やマシンの差が比較的大きく、また長時間だけに毎年ドラマが生まれることでも有名。

 そんな中、18歳という最年少で初参戦した選手も注目だった。その選手とは、“TEAMJP DOGFIGHTR YAMAHA”のトップライダーである藤田拓哉選手。17歳の時に出場できる実力がありながらも、レギュレーションにより、18歳になるまで待ってようやく鈴鹿8耐の出場を果たした。7月28日(日)の決勝戦では63台で争われ、13グリッドからスタートとなり、優勝したMuSASHi RT HARC-PROから、13ラップ遅れの17位で完走している。鈴鹿8耐に初出場のプライベーターチームで、18歳という最年少ということを考えると、藤田選手の伸びしろはまだまだ無限大。

 藤田選手はテレビで見たバイクレースに興味を持ち、6歳からポケバイにまたがり、中学2年で125cc、中学3年で全日本の250ccクラスに参戦している。史上最年少の15歳で、国内最高峰の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスにフル参戦するなど、10代を瞬く間に駆け足で上ってきた。今回の練習走行では2分9秒808をマーク。最速ラップはMONSTER ENERGY YAMAHA-YARTの中須賀克行選手(2012全日本選手権チャンピオン)の2分06秒817だから、その実力はかなりのもの。

 そんな卓越した才能を持つ藤田選手だが、ずっと自分の居場所を探してきたという。小さい頃はやんちゃだったせいで、友だちも少なかった。小学校3年の時、もてぎで開催されたロードレース世界選手権(モトGP)を見に行った。その時、バレンティーノ・ロッシとマックス・ビアッジの二人に運良くサインをもらい、一緒の写真まで撮らせてもらったことが強烈な体験となり、8歳にして、GPレーサーとしての道を目指すことになるのだ。

 「とにかく練習するのが楽しいです。同年代の友だちとは遊ぶ時間もないです。考え方や遊び方がまわりの友だちと同じだったら、今の自分はいないと思います。今のチームにいると、メンタルは強くなりますよ。趣味で走っているのとは背負っているものが違うので、その重みは感じています。元々バトルが好きだから、レースは自分の居場所」と藤田選手は語る。

 そんな藤田選手だが、体調は万全ではなかった。数週間前の練習走行で転倒し、右膝にダメージを負ってしまい、その一件がトラウマにもなってしまった。リアブレーキは強く踏めないし、シケインでの切り返しでは、右足の踏ん張りが効かず、長時間走るとなると右足自体が痺れてくる。実際に右足をかばうように引きずりながら痛々しく歩いていたが、でも彼はそれを決して言い訳にはしない。なぜならば、他のライダーも万全の体調とは言えないし、そういった甘えはこの世界では通用しないものだと若いながらも知っているからだ。

 「ストレートで280km/h、コーナーで200km/h近いスピードで曲がっていくのだから、怖くなかったらおかしいですよ。逆に恐怖を感じないと危ないと思います」と言いつつも、怖いけれどもやっぱり走るのは楽しいと言う。

 最終的な目標を聞いてみた。「小さい頃から、自分で達成できそうな目標をその都度、細かく設定し、それを着実にこなしてきました。これから先の目標はモトGPに出たり、スーパーバイク世界選手権も経験してみたいです。一度しかない人生なのだから、いろいろな海外のレースで走りたい。最終的にはレース活動だけで食っていけるようになれればと。それには速いライダーではなく、強いライダーになりたいです。上手くは言えませんが、強いライダーとは、速さはもちろん、運やメンタル面、チームなどいろいろな要素を全部ひっくるめて、すべてを味方につけられるライダーということかな」

 いくら速くても、転倒してしまえばポイントにならないどころか、怪我をすれば次回走れないかもしれない。彼はレースの進め方を早くも身につけたクレバーな選手。それは誰に言われたわけでもなく、自らが感じ考えたことで、国内のトップライダーたちと渡り合ってきたからこそわかるのかもしれない。

 「同じバイクで走ったら、誰にも負けないです。でもこれはどの選手も同じ考えだと思いますけれど」

 まだ幼さの残る顔からは想像できない負けん気の強さを時折見せる。それでいて礼儀正しく、謙虚でファンに対してのサービス精神も旺盛。決勝前夜に21時まで行なわれた、ナイトピットウォークでは、他のチームがピット作業練習やキャンギャルの撮影会を行なっているなか、彼だけは遅くまでファンとの撮影やサインにも心よく応じていた。決勝戦前日にはゆっくり休養してレースに臨みたいところだが、若さゆえ、また持ち前のファンサービス精神からか、ファンと共に前夜祭を一緒に楽しんでいた。それが彼の弱点になるのか? いや、彼はわかっている、ファンや大勢のスタッフによって今の自分があるということを。

 誰からも愛され、まわりの人間を自分のファンにしてしまうほどの魅力と、走りの実力を兼ね備えたレーサー、それが藤田拓哉なのだ。そんな彼が二輪レース最高峰である、モトGPで、表彰台を飾る姿を見てみたいのは、自分だけでないはず。(編集担当:鈴木博之)