ホームエネルギーマネジメントシステム、通称「HEMS」。この言葉が頻繁に使われるようになって数年が経ち、HEMSの文字を目にする機会も増えてきた。先日開催された、今年のCEATECでも多くの企業がこのHEMSに対応させた製品の展示を多く行っており、市場の伸びを予感させるに十分であった。
HEMSの最大の特長は言うまでもなく「エネルギーの見える化」にある。HEMSというシステムを家庭に導入すると、モニターやパソコン、タブレット端末などを通して、家庭のエネルギー消費量をいつでも確認できるようになる。電化製品ごとの電力消費量も一目瞭然になるので、否が応でも省エネ意識が高まるというわけだ。太陽光発電や蓄電池とも連動することで、発電量や発電量の予測、蓄電池の充電状況なども見えるので、家庭での創エネや蓄エネの状況も一目瞭然だ。
また、HEMSのもうひとつの大きな役割として「エネルギーの制御」がある。HEMSを導入すれば「エネルギーの見える化」と同時に端末を通じて電化製品を細かく制御できるようにもなる。
ところが、これまでのHEMSには一つの課題があった。それはWiFiなどの無線による通信が大前提となっている点である。無線の通信は非常に便利な代物であるが、建築環境の影響や通信環境が不十分であれば完全には機能できない場合もある。普及が進むためには、この課題をクリアしなければならない。
この課題に対して、この度、半導体メーカーのロームが電力線搬送通信(PLC)規格の「HD-PLC」 inside規格に準拠するベースバンドICの基本設計完了を発表したことで、市場は大きく動き出すだろう。
今回、ロームが開発したICは、家電製品などに組み込み、コンセントにプラグを差すだけで電力線搬送通信が実現するものとなっている。従来の「HD-PLC」Completeと比較して、大きさで約3分の1、間欠動作機能を導入することで消費電力はなんと約30分の1にまで抑えられる。さらに、TCP/IPなどのプロトコル処理をIC内で可能にしており、既存システムから大幅な変更を必要としないため、各家電メーカーの「HD-PLC」導入における開発負荷を大幅に軽減する事ができるなど、導入を後押しする材料が揃っている。
電力線搬送通信の特長は、既存の電力線を活用できるという点で、新たな配線工事が不要で従来の電源コンセントを通信網の入り口に使えるということのほか、無線で懸念される情報の安全性や混信などの問題を解決できる。また、鉄筋コンクリートや1階から3階での通信など建築環境に左右されない通信品質を確保できることも大きい。「HD-PLC」は無線が苦手とする環境下で、これらの特長を十分に発揮しHEMS構築のために無線と共生するものだ。
家庭用の白物家電のほとんどが、コンセントにつないで使用するものであり、今後もそのスタイルは変わらないだろう。特別な工事なども必要なく、普段と同じ使い方をしているだけでHEMSシステムが導入できるのであれば、将来的な展望も明るい。
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済が先日発表した「スマートハウス関連技術・市場の現状と将来展望2013」によると、HEMSの市場規模は、2012年は国内で30億円、海外で252億円となっているが、20年には国内で119億円、海外で303億円の規模にまで拡大すると見られており、ただでさえ注目されている市場である。それが、より手軽に導入できるとあれば、普及にも加速がかかり、更なる市場拡大の上積みが期待できるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)