毎年12月になると兜町周辺限定で聞かれる言葉が「掉尾の一振」。語源は複数の説があり、期間を区切ったら人はラスト(掉尾)の直前頃にがんばって結果を残すというのが一つ。それは、何かの作業をすると終わりかけの頃に集中力が高まるという心理学で言う「終末努力」にも通じている。別の説は、大きな肉食動物に襲われたか弱い小動物が、最後の勇気を奮い立たせてシッポ(掉尾)を振って一撃を食らわせ、相手がひるんだすきに一目散に逃げることで、「イタチの最後っ屁」と似たような意味。弱肉強食の世知辛い動物界で、弱い者が食べられずに生き残って子孫を残すための最後の手段である。
弱肉強食で世知辛いのは人間界の株式市場も全く同じ。日経平均先物のトレードで裁定買い残を積み上げ、日本株を好き勝手に食い荒らしてきた強者の肉食動物、海外の「短期投機筋」は前週4日、アメリカの金融機関の投機的取引が全面禁止されてヘッジファンドもその糧道を断たれかねない「ボルカールール」が10日にも決定されるという、寝耳に水の凶報を聞いて浮き足立ち、「やばい、一斉退却!」と逃げていった。その逃げ足はウサイン・ボルトよりも速く、日経平均は予想外の急落に見舞われた。
だが、現在の日本の株式市場が小動物よりも哀しいのは、ボルカールールで言うところの「投機的取引」で強者に食べられていないと、じり貧になってしまうことである。
期待されている「年金資産などの筋のいい海外資金」の流入は、気配はあってもまだ本格化していない。国内の年金資金は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用ルール変更がこれから始まるところで、株価を上昇させた6日の伊藤東大教授の発言は「こうすべきだ」と言っただけのこと。海外の短期投機筋はボルカールール怖さに食い逃げしてしまい、さらに国内の一般投資家が「譲渡益の税率が2倍になったら、株なんかやってられるか」と今月中に売って手じまいしてしまったら、マーケットは確実に干上がる。それはアベノミクス相場以前、2012年11月14日以前に逆戻りすることを意味する。
売買代金は1兆円割れし、値上がり率のランキングに出てくるのは仕手系銘柄と低位株のマネーゲームと、時折つむじ風のように巻き起こるテーマ銘柄の循環物色程度。平均株価はボックス圏の上げ下げをひたすら繰り返すだけという「砂漠のような光景」だ。
辰年の末の「昇り龍」のような上昇で始まったアベノミクス相場が、内憂外患の巳年に尻すぼみの末に砂に埋もれて終焉するとは、まさしく「龍頭蛇尾」。そうなるか、ならないかは、今週の動きでわかるだろう。
6日発表のアメリカの雇用統計は市場予測を超えて好調だった。直後のNYダウは198ドル高と素直だったが、17~18日のFOMCまでの間、経済指標が良いと量的緩和縮小懸念で株価が下がる「ひねくれ病」がまた再発するかもしれない。10日とされているボルカールールの金融監督当局による最終案承認はきわめて重要。中身については厳しくないことを祈るしかないが、適用時期が2014年の4月や7月というように近ければ日本株売りは加速し、2015年の1月とか7月というように遠ければひと息つけるだろう。
国内ではIPOラッシュの影響が出そうだ。12月は今週以降15件も予定されていて、今週は5件。18日と、注目の足利HD<7167>が上場する19日はそれぞれ4件もあり、いくら何でも多すぎる。6日に東証マザーズに新規上場したオンコリスバイオファーマ<4588>で「公開価格<初値」は43連勝になったが、前週の2件は11月のような「翌日、公開価格の2倍以上の初値がつく」というパターンが崩れ、風向きが変わった。数が多いと投資家の注目も売買も分散されるので、昨年12月以来の連勝のストップもありうる。また、IPOラッシュは投資家の関心と資金を既上場銘柄から横取りして平均株価が下落しかねない副作用もある。
今週、東京市場にとって最大の「危険日」は11日だ。裁定解消売りで下落しやすい「SQ週の水曜日」で、ましてや今月はメジャーSQ前。さらに朝方にはボルカールールの詳細が伝わっているはず。鬼が出るか蛇が出るか。おまけにこの日は新規IPOが2件もある。腹をくくったほうがいい日になりそうだ。
ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは前週より下値が切り下がって14500~15500円とみる。メジャーSQに向けて嵐のような乱高下もあるだろう。リスクから身を守る〃シートベルト〃を点検しよう。