A級戦犯を合祀する靖国神社に安倍晋三総理が26日、参拝した。戦争犠牲者となった御霊を祀る靖国神社に参拝し、哀悼の誠を尽くすことは総理のポストを降りてからにすべきだった。
あえて、なぜ、総理の肩書きを持ち、日韓、日中関係の改善を図らねばならないこの時期に、外交を無視するような参拝をしなければならないのか。2月9日の首都決戦(都知事選挙)を控え、戦没者遺族会の受けを狙った集票作戦かと穿って見られても仕方ないような、この時期の参拝になった。
現職総理の参拝は2006年8月15日(終戦記念日)の小泉純一郎氏以来だ。安倍総理は第1次内閣の時も参拝していない。なのに、なぜなのか。侵略戦争を支持したA級戦犯が靖国神社に合祀されて以来、時の陛下(昭和天皇)でさえ、参拝を控え、結局、合祀され続けていることから崩御なさるまで参拝はなかった。現在、天皇陛下もその意思を継いでおられるようす。
現職総理の靖国神社参拝には国内においては政教分離の問題をはらんでいるが、今、最も配慮すべきは尖閣諸島や竹島問題に絡んでの中国や韓国との外交上の緊張関係の改善だ。
小泉元総理は当時、終戦記念日の参拝に「こころの問題」と語ったが、ことは一国の総理のことで「こころの問題」で片付かない。それが現実であり、歴代、総理は現職の間は中国や韓国にも外交上の配慮から参拝を控えてきた。
野田佳彦前総理の時は、総理はもちろん、閣僚についても閣僚就任中は参拝について配慮するよう指示があった。大人の付き合いとはそういう『相手の心情を汲んだ行動をとるもの』であり、自国の問題なので、他国からとやかく言われる筋合いはないというものではない。
安倍総理は参拝後「日本のために命を犠牲にした御英霊に尊崇の念を示すために参拝した。中国や韓国に謙虚に礼儀正しく説明し、対話を求めていきたい。是非、この気持ちを直接に説明したい」と語った。
そこまで参拝にこだわるのであれば、なぜ、参拝前に外交ルートで直接説明しないのか。日本国のために戦争で命を犠牲に戦った英霊の御霊であっても、相手国にとっては「侵略戦争に加担した兵の霊」との認識しかないだろう。なので、被害者に加害者が、参拝後に「謙虚に礼儀正しく説明する」と言っても、聞く耳は持てないのでは。
理屈でなく感情なのだと解すべきだろう。ゆえに、中国や韓国は一斉に国民感情を踏みにじるものと反発している。
野党第1党・民主党の海江田万里代表は「わたしどもの政権の時も、総理はいろんな思いはあるが大所高所から判断した」と民主政権時代には現職総理の参拝はなかった理由を大所高所の外交判断によったものとするとともに、安倍総理の参拝には「いろんな個人的な思いがあるだろうが、総理大臣という立場に個人的な思いや私人としての立場はない」と自重すべきだったと今後についても総理の立場として自重することを求めた。総理の個人的思いで行動されたなら、日中間、日韓間においての『国益』が損なわれかねない。
実際、日中友好議員連盟(超党派の国会議員で構成)が中国を訪ねながら、安倍総理の靖国神社参拝が原因で、この日、予定されていた劉延東中国副首相との会見がキャンセルされてしまった。国税を使って訪中しているはずだが、国会議員レベルの日中相互理解の機会を無にしてしまった責任は明らかに総理にある。
「10月に来日したケリー米国務長官、ヘーゲル米国防長官が靖国神社ではなく、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ献花した意味を重く受け止めるべき」(社民)との指摘もある。中国の程永華駐日大使は「国際社会への挑戦だ」と語り、抗議した。「日中関係を傷つけた」と。
この際、靖国神社の合祀問題、総理参拝と政教分離の問題、無宗教施設の建設検討など、改めて外交や憲法と照らしながら国会で議論されてしかるべきだろう。閣僚や総理参拝が常に外交問題や政治問題になる状況は早期にピリオドを打つことが必要で、さきの戦争の反省に立ったうえでの解決策が必要だ。(編集担当:森高龍二)