好調に伸びる電子書籍市場・2014年、巻き返しを図る日本企業の秘策

2014年01月01日 15:04

 「今年は、電子書籍がくる」そんな情報を幾度、耳にしたことだろうか。新しい電子書籍リーダーが発売されるたびに、これからは電子書籍の時代、紙の文化は終わる、そう言われてきた。しかし、どうだろう。紙の文化は未だにしっかりと我々の前に存在している。

 結局のところ、これまででもっとも優秀な電子書籍リーダーは、携帯電話機だった。片手で操作ができ、かさばらず、新たなデバイスを買い求める必要もない。日本ではその手軽さが若者世代を中心に受け、2000年頃から「ケータイ小説」という新しい分野が登場し、中には数百万部もの売り上げをたたき出し、映画やマンガ、ドラマ化された作品もあった。とはいえ、やはりこれも新しい文化でしかなく、紙の書籍を脅かすというものではなかった。あくまで携帯電話で楽しめるコンテンツの一つでしかなかったのだ。

 ところが、2008年頃から、このブームがいきなり勢いを無くす。この時期は丁度、iPhoneが日本に登場した時期と符合する。この頃から徐々に、これまでのケータイ小説がなりを潜めていく。そして2012年、ついに電子書籍の売り上げがケータイ小説を追い抜くことになる。

 インターネットメディア総合研究所が7月にまとめた「電子書籍ビジネス調査報告書2013」によると、2012年度の電子書籍市場規模は対前年比15.9パーセント増の729億円となっている。10年度に650億円に達した後、11年度に629億円へと一時的に落ち込み、このまま縮小傾向に向かうのではと危ぶむ声もあったものの、縮小どころか100億円増加する大躍進をみせたのだ。この背景には、スマートフォンやタブレットPCの普及はもちろん、AmazonのKindleや楽天Koboなどの新しい端末の登場が大きく貢献していると見られている。実際、これまで主流だったケータイコミック市場は、前年比26.9%減の351億円と縮小に向かっているのに対し、新しいデバイス向けの電子書籍市場は、前年比228.6%増の368億円と躍進しているのだ。同調査では、今後も市場は拡大傾向にあり、2017年度には2390億円程度にまで膨れ上がると予測している。

 日本だけでなく、米国でもこの流れはほぼ同じで、大手出版社の売り上げのおよそ24パーセントが電子書籍によるものといわれている。とはいえ、米リコーの調査によると、米国でダウンロードされた電子書籍の60%が「読まれていない」ということも判明しており、電子書籍以外のタブレットPCコンテンツが増えてくれば、徐々に電子書籍の人気は衰えて行くのではないかと、やや否定的な見方をしているようだ。

 一方、日本では先日、紀伊国屋、三省堂、有隣堂、今井書店など国内の書店及び、楽天<4755>やソニー<6758>などの電子書店、さらには日本出版販売、トーハンなどの取次業者計13社で「電子書籍販売推進コンソーシアム」を設立。電子書籍業界で独走状態のAmazonのKindleストアや、アップルのiBookストアに対抗すべく、立ち上がった。同連合体では、来春早々にも参加書店の店頭で、電子書籍を販売する実証実験を始めるという。Web決済ではなく、リアル書店で電子書籍の作品カードを販売し、購入者はカード記載されている番号を入力して電子書籍をダウンロードするという仕組みだという。これにより、異なる端末や仕様のプラットフォームでも電子書籍が楽しめるようになるほか、既存の書店も保護することもできると意欲を見せている。

 しかし、この手法に否定的な意見も多い。そもそも、電子書籍の利点の一つがWeb上での検索や決済が行えることにある。確かに、ゲームデータや音楽データならまだしも、リアルな書店でデジタルな書籍データを買い求めようと思うだろうか。同じ金額を支払うなら、やはりリアルな紙の書籍の方が良いと思うのではないだろうか。

 日本の電子市場ではたびたび、ガラパゴス携帯のような独自の進化を見せることがある。電子決済に未だ不慣れな日本人にとっては、もしかするとリアル書店で決済をして電子書籍を閲覧するという、アナログとデジタルが混在するスタイルが合っているのかもしれない。ただ一ついえることは、日本の電子書籍市場は今失敗してしまうと、取り返しのつかない大きな打撃を受けてしまうということだ。リアル書店を守りたい気持ちは分かるが、果たして、そんな甘い姿勢で巨大な怪物たちに太刀打ちできるのだろうか。(編集担当:藤原伊織)