世界規模でエネルギー需要が増大していく中、化石燃料や原子力エネルギー以外の再生可能エネルギーへの関心が高まっている。とくに、豊富に存在する水素をエネルギー源とする燃料電池への期待は大きい。富士経済が発表した「2013年版 燃料電池関連技術・市場の将来展望」によると、2011年度の燃料電池システム世界市場は699億。2012年度以降も引き続き家庭用と産業・業務用が市場を牽引し、2015年度には3,388億円にまで拡大すると予測されている。さらに15年に燃料電池車の販売が開始されることで市場拡大が進み、2025年度の世界市場は5兆1,843億円規模にまで膨れ上がると予測されている。
燃料電池は水素を源とする次世代のエネルギーシステムで、自動車や家庭用をはじめ、グリッド、携帯機器、小型移動体、小型電源など、多様な分野に応用できることが大きな特長だ。携帯機器用など、すでに研究開発段階から商用化に移行しているものも多い。現在はまだ市場形成期であるため、コストやインフラなどの課題は山積みだが、来るべき水素社会に向け、自動車メーカーなどは水素インフラ整備に積極的な欧州関連機関との連携を強める動きをみせている。直近では、1月7日からラスベガスで開催された米国最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の開幕前日、トヨタ自動車が記者発表会を開催し、2015年から燃料電池車(FCV)の量産車を米国の市場に投入する計画を明らかにし、それに伴って水素ステーションの拡充に向けても積極的に取り組む姿勢を示している。これが実現すれば、自動車業界はもとよりあらゆる方面で燃料電池の普及が加速されることになるだろう。
このような背景の中、半導体・電子部品のロームと燃料電池開発ベンチャーのアクアフェアリーを中心とした企業16社と京都大学が、経済産業省、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、そして京都府や京都市、島根県、三重県などの自治体と連携し、「京都燃料電池アライアンス」を発足した。同アライアンスは同業者による共同組織ではなく、産官学垂直連携方式を用いることで、研究開発、製品化、量産技術、燃料供給、工業デザイン、ユーザーニーズ、実証実験フィールドの提供など、新しい燃料電池システムの確立を目指す。
開発を進めるのは固体水素源(水素化カルシウム)型燃料電池で、具体的な開発品としては、活用用途が広く、災害時や緊急時などに活躍しそうな「ハイブリッド高出力タイプ」(200W)、携帯やスマートフォンなど各種モバイル機器や照明など向けの「小型タイプ」(2.5W)、約6ヶ月間に渡る長期間の電源供給が可能で、山岳地や僻地などの電源確保が困難な地域での活用が期待される「長時間仕様タイプ」(3W)の3タイプがあり、2015年度の量産化、商品化を予定している。
近い将来、大幅な市場拡大が見込まれている燃料電池市場。すでに世界では、その市場を見越した動きが活発になりつつある。日本国内では、現時点では「京都燃料電池アライアンス」が燃料電池の実用化、普及を促進する唯一の業界団体であるが、これが成功例となって市場が盛り上がることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)