近ごろ、「お試しビジネス」なるものが注目され始めている。マーケティングの手法としては、取り立てて目新しいものではない。新しいどころか、スーパーやデパチカの食料品売場で必ず見かける試食コーナーや衣料品の試着コーナー、化粧品などの試供品、車の試乗等々、枚挙にいとまがないほど、古くから様々な業種で使われてきた手法である。販売側としては、実物の使用感に勝るアピール力はないし、消費者の方も購入前に試せるので、失敗の少ない買い物につながる。まさに両者のニーズが合致した理想のビジネス手法といえるだろう。そして、そんなお試しビジネスがここ数年、さらに拡大傾向にあるのだ。
その原動力となっているのがインターネットの普及。若い世代を中心に、リアルで試してネットで購入するというスタイルが増加していることで、それを専門にするWEBサイトや格安で商品をレンタルするサービスが現れ、これまで「お試し」をしてこなかった業種にまで広がりを見せている。
例えば、最新の高級家電のレンタルなどで圧倒的な人気を誇っているのが「おかりなレンタル」というWEBサイト。数万円から数十万円するような高級家電品を、5日間3,000円前後の金額でレンタルできるので、昨今の家電ブームともあいまって、利用者が急増している。また、花王<4452>が運営する、JR横浜駅構内にある女性専用ラウンジ「リフレスタ」では、30分200円の使用料を払うとパウダールームが利用でき、そこでは同社の主力化粧品AUBE coutureの新製品等、140種類にものぼる化粧品を試用することができる。さらに、イオン<8267>が13年12月に千葉市で開業した「イオンモール幕張新都心」では、東京ドーム4個分の敷地の内、なんと全体の3分の1を体験型サービスなど非物販型のスペースとして振り分け、話題を呼んでいる。とくに、高級品や高額品の購入を検討するにあたり、購入前に一度試したいというニーズが増えているようだ。
高級品といえば、我々の生活の中でもっとも高額なのが不動産だ。住宅展示場のモデルハウスは、体験型施設の典型的なものだろう。住宅展示場では実際にモデルハウスの中に入り、ユーザー自身が間取りや内装を確かめることができる。しかし、これまでのモデルハウスでは、一つ大きな問題があった。それは、間取りや建材など、家の仕様や雰囲気は体験できても、「暮らし」までは体験できないということだ。
家は言うまでもなく、そこで人が暮らすためのものだ。いくら内装が良くても、建材が強固でも、暮らしにくければ、いずれ不満が出るのは当然だ。そのような背景の中、住宅展示場内で面白い取り組みを始めたところもある。
アキュラホームでは、同社商品のオプションとして展開しているマイクロバブルバスの機能やマッサージチェア、薪ストーブなどをモデルハウスに設置し、体験できることで、その住宅での暮らしをお試しできるようにしている。
「お試し」をすると、心理的にも購入しなければいけないような気になってしまうが、たとえ購入に結びつかなくとも、商品を提供するメーカー側にとっても、マーケティングや品質向上についての情報を得られるという大きなメリットがあるので、それほど気にする必要はない。どんどん利用するといいだろう。(編集担当:藤原伊織)