国宝収める歴史的建造物と次世代無線通信の意外な関係

2014年02月15日 19:26

LED

日本の寺社で初めて、電源、配線、メンテナンス不要のEnOceanスイッチが導入された當麻寺(奈良県・葛城市)。国宝の「當麻曼陀羅図厨子」などが堂内に美しく浮かび上がる。

 近年、無線技術の発展が目覚しい。無線技術といえば、これまで最新の工業製品や工業設備などの専門的な用途で使用されるイメージが強かったが、今や住宅設備や家電など、身近なところでも欠かせない技術になりつつある。話題のホームエネルギーマネージメントシステム「HEMS」や、スマートフォンやタブレットを用いた無線LANアプリケーション、また、農業や畜産業、ヘルスケア、医療サービス、自然災害対策など、様々な分野で近距離無線技術の利用範囲が拡大している。

 そんな中、奈良県葛城市の當麻寺で、日本の寺社では初めて、電源、配線、メンテナンス不要のEnOceanスイッチが導入されて話題になっている。

 飛鳥時代に創建されたという當麻寺は、白鳳・天平様式の大伽藍を有する由緒正しい寺。宗派は、高野山真言宗と浄土宗の並立で、金堂の弥勒仏や四天王などの白鳳美術をはじめとした歴史的に重要な寺宝・文化財を多数収蔵している。

 今回、EnOceanスイッチが導入されたのは、国宝や重要文化財が多数収蔵されている伽藍三堂。これまでお堂の中には充分な照明設備が配備されておらず、常に暗い状態だった。それでは、中将姫の伝説でしられる国宝の「當麻曼陀羅図厨子」や、同じく国宝の弥勒仏坐像などをはっきりと拝むことができない。しかし、この伽藍三堂の建物自体が国宝、重要文化財といった指定文化財であることから、照明設備の設置が困難だった。そこで今回、建物をなるべく傷つけない上に、電池やメンテナンスも不要なEnOceanを用いたLED照明システムが導入されたというわけだ。

 具体的には、EnOceanの照明スイッチを用いることでオン/オフの制御情報などを無線で通信できるので、これまで照明機器からスイッチを経由して電源へと繋がっていた配線が、照明機器から5センチほどのリレーを介すだけでダイレクトに電源に繋げられるようになった。スイッチに至る電源の配線が不要になるため、建物への負担や工事が最小限に抑えられるうえ、美観も損なわない。また、EnOceanスイッチはユーザーがボタンを押す動きを電力に変換するので、電池も不要となり、交換時期等を気にすることなく使用できる。

 施工にあたっては、照明コンサルティング会社の灯工舎が照明演出の設計施工を担当し、照明メーカーのシーシーエス<6669>がLED照明機器を納入。そして肝心のEnOceanを用いた照明スイッチシステムは、半導体メーカーのローム<6963>が提供した。ロームは次世代無線通信規格推進団体「EnOcean Alliance」の主幹メンバーであるプロモーターでもあり、EnOcean技術に関しては日本を代表する企業といえる。

 EnOceanの無線通信技術は、ヨーロッパで高い評価を得ており、既にビルの照明スイッチなどで40万棟以上の採用実績がある。また、照明スイッチのほか、盗難・不法侵入防止などセキュリティ用途での活用も期待されているという。

 寺社の薄暗く厳かな雰囲気も格別だが、価値のある文化財や国宝はやはり、最適な照明の下でじっくりと拝見したいものだ。今回の事例をきっかけに、日本国内でも寺社仏閣などの歴史的価値の高い建造物への採用も進むのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)