体験型施設がブーム ショッピングモールから、暗闇体験まで

2014年02月22日 18:34

DID

デジタル全盛の時代だが、インターネットでは決して体験できない、身体を使ったり、五感に訴えかけたりする体験型施設やイベントが人気を集めている。

 スマートフォンやタブレットの普及によるインターネット人口の急増に伴って、社会の仕組みも大きく再編され始めている。インターネット通販や電子書籍は、今や当たり前。個人の消費スタイルも大きく変わった。その気になれば、自宅に居ながらにして海外の街や遺跡、美術館などをバーチャルに散策することだってできる。

 ところが、その一方で近頃、体験型の施設やイベントが人気を集めている。例えば、躍進を続けるイオン<8267>が昨年12月20日に千葉県千葉市美浜区にオープンした「イオンモール幕張新都心」は、国内のショッピングモールでは全国3番目となる規模で、国内初出店の店舗を含む約350の専門店を有する巨大な施設だが、ここの目玉はそれだけではない。日本初上陸となる、親子三世代で楽しめるお仕事体験テーマパーク「カンドゥ」や、特撮ヒーローの世界観を体験できる「東映ヒーローワールド」、体験型キッズゾーン「みらいやのもり」、さらには、日本最大級の体験型スポーツモール「アクティブモール」など、従来のショッピングモールとは一線を画す、エンターテインメント性の高い施設となっている。

 体験型施設やイベントの中でも、とくに注目度の高いものが五感に訴えかけるものだ。

 昨年10月にリニューアルオープンしたコーヒー専門の博物館「UCCコーヒー博物館」(神戸市中央区)も、焙煎体験コーナーや、香りや味わいなどインターネット経由では決して得ることのできない、五感で体験する施設となっている。

 そして、極めつけともいえる体験イベントが、完全に光を遮断した完全な暗闇を体験する「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク(DID)」だ。1988年にドイツで生まれたこのDIDは哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によるもので、すでに世界30か国・約130都市で開催されて、世界的な広がりをみせている。日本での初開催は1999年11月。現在は東京・外苑前の会場にて常時開催されており、すでに約10万人もの人が体験している。さらに大阪でも、この試みに強く共感した積水ハウス<1928>が、2013年4月に梅田にオープンしたグランフロント大阪4階「住ムフムラボ」内において、DIDとの共創プログラム「対話のある家」を開催している。同イベントはDIDの中でも異質なもので、家をテーマにしたDIDはここでしか体験できないという。
 
 今回筆者が体験してきた。参加者はまず、最大6人のグループとなって、光量を落とした小部屋に案内される。そこに待っているのは、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)だ。その部屋で各々の自己紹介や、暗闇の中での注意事項の説明が行われた後、視覚障がい者の使う杖、白杖が各自に配られ、いよいよ暗闇の中へ。

 人間の五感の80パーセントを占めるといわれる視覚を完全に奪われた瞬間、いかに普段、視覚に依存していたのかがよく分かる。残された聴覚と嗅覚、触覚を頼りに暗闇の中を進んでいく内に、次第に不安もほぐれ、非日常の空間を楽しめるようになってくる。木の香りや畳の感触。全く見えていないはずなのに、目を凝らしてみると、懐かしくて温かな家が見えてくるように思えるから不思議だ。その異世界の中をグループの皆で探検したり、話したり、遊んだりしていく内に、コミュニケーションの大切さ、人のぬくもりを思い出すことができる。

 また、ユニバーサルデザインは大事だが、段差や出っ張り、角などが逆に、視覚障がい者にとっては目印になるということも、この体験を通して初めて気付かされる。これはやはり、積水ハウスが仕掛けたDID「対話のある家」ならではの体験といえるだろう。同イベントは季節ごとの開催となっており、第4回となる今回は3月24日まで1日6回催され、完全予約制となっている。リピーターも多い人気イベントで、休日はすでに予約も埋まりつつある状況だという。

 便利さを追求するのもいいが、便利さをあえて捨てることで大切な物を再確認することもできる。デジタルなモノが溢れている世の中だからこそ、アナログな体験型イベントや体験型施設が求められているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)