国会会期末(6月22日)が近づくにつれ、安倍晋三総理の本音が出てきた。集団的自衛権について「特段、時期を定めず」与党協議や国民への説明に時間をかけ、深い議論をするポーズをとってきたが、年内の日米防衛協力ガイドライン見直しに集団的自衛権の行使を反映させようと今国会中の閣議決定の姿勢を浮き彫りにした。
閣議決定のための会期延長は考えていないとする総理は自民幹部に与党協議を急ぐよう指示、高村正彦自民党副総裁は閣議決定への準備を政府関係者に要請したという。
公明党の山口那津男代表は「首相は与党の協議結果に基づいて閣議決定を行うと言っており、政府が勝手にやるということではない」と与党合意が前提になっているとするとともに「従来の憲法解釈との論理的整合性が全くとれない分野に踏み込むのであれば、憲法改正手続きをとるのが道筋」との考えを示す。
解釈改憲はあってはならない。憲法改正の手続きを経ずに、実質的な改憲をするとすれば「歴史的犯罪」といわねばならない。それが「国民の生命・財産を守るため、国家の独立を維持するため」のものであったとしても、今日・明日に侵略戦争を仕掛けられるほど緊迫状況ではないだろう。
集団的自衛権の行使をしなければ国民の生命・財産を守れないとするなら、その必要性を国民に説明し、憲法改正への理解を求めるべきだ。
民主党の辻元清美衆院議員が政府に対し「過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで米国に救助され、米国の艦船で輸送された事例はあるか。過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで紛争の一方の当事国に救助され当該国の艦船で輸送された事例はあるか」と質問主意書で答弁を求めた際、政府からは「平成23年2月、リビアにおける情勢悪化を受け現地から邦人4名が米国政府のチャーター船で輸送された例がある」と回答があった。
辻元議員は、その回答に「安倍総理が集団的自衛権の行使についてパネルで示した『日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない』というケースは、過去に、2011年2月リビア内乱における1例しかないことがわかった。それにこれ、軍艦じゃなくチャーター船(すなわち民間の船)ではないか。リビアは反政府デモの拡大で、他国との戦争じゃない。これのどこが集団的自衛権の事例なのだ?」と安倍総理が国民に危機感を煽って、欺いたことになると提起。「軍艦に民間人を乗せるというのはほとんど考えられない」とも指摘する。
辻元議員は「紛争が起こった場合、各国の軍艦が民間人を乗船させず、民間の船や飛行機に輸送を要請するのはなぜか。軍艦は敵からの攻撃の標的になる可能性が高いため、民間人が巻き添えになる。避難民に化けたテロリストが乗り込んでくる可能性もある。第一、乗り込むスペースがない。安倍首相はこのような紛争地での軍事的常識をご存じないようだ。子どもやお母さんを助けられないと国民感情に訴える物語で国民を納得させようという意図が透けて見える」と、総理の説明より、辻元氏の説明の方が素直に理解できる。それは内容に無理がないからだ。
もともと安倍総理は総理就任間なしにオバマ米大統領との会談で集団的自衛権に対する見直しを自ら語った。それはある種、見直しを日米首脳同士の約束にしてしまったことになるだろし、自民党の公約にもあがっているので、総理の立場というより、自民党総裁の立場や自らの政治家としての思いが前面に出過ぎの感がある。
自民党は2013年の党の政策Jファイルで「集団的自衛権を含む必要最小限度の自衛権行使を明確化し、そのうえで国家安全保障基本法を制定する」と明記している。
自民党は「その法律(国家安全保障基本法)で、内政上の施策に関する安全保障上の必要な配慮など『国・地方公共団体・国民の責務』をはじめ、自衛隊の保有と文民統制、国際社会の平和と安定のための施策、『防衛産業の保持育成』と『武器輸出』などを規定し、安全保障政策を総合的に推進する」と『集団的自衛権の行使は必要最小限度の自衛権行使』に入るとすでに明記。また『国民の責務』や『防衛産業の保持育成』も国家安全保障基本法の下で法定する考えを明確にしている。
安倍総理・自民党にとっては集団的自衛権を解釈改憲で実現させるという難題な公約を巨大与党であるうちに仕上げてしまいたい思いが、特に安倍総理にはあるようだ。しかも2013年の自民党の政策Jファイルでは「米国の新国防戦略に対応して、日米防衛協力ガイドラインを見直す」とも明記している。
今国会中に閣議決定をしたいと急ぐ政府・自民の一連の動きがこうしたJファイルに照らすと理解しやすい。
そして、今の安倍政権にとって、集団的自衛権の行使容認実現の対抗勢力は野党ではない。与党の公明党だけが手ごわい勢力として存在しているに過ぎない。非常に残念なことだが、エネルギー政策を含め重要な案件こそ、議席数がすべてになってしまっている。
安倍政権にとっては来年の統一地方選挙での公明党との協力関係を無視できない。その後の国政選挙においては特に重要な存在だ。そのため、公明党は手ごわい存在にもなりうる。
とすれば、集団的自衛権の行使について、憲法9条(戦争の放棄)を形骸化させる解釈改憲を阻止し、平和憲法の下で平和外交を進めてきた戦後の日本の安全保障外交路線を踏み外させないよう、解釈改憲という暴挙を抑制できるのは公明党のほかない。公明党にはその意味を踏まえた冷静な対応を期待したい。(編集担当:森高龍二)