幸せそうな夫婦の真ん中には愛らしい赤ちゃん。「子どもが生まれました」という微笑ましい報告の影には、「産後クライシス」という問題が潜んでいる。
産後クライシスとは、子どもが生まれることをきっかけに、夫婦仲が険悪になってしまう状態のことだ。この言葉を世間に知らしめたのは、2012年9月に放送されたNHKの「あさイチ」という番組取り上げられてから。
不慣れな育児に追われ、髪を振り乱して常に苛々している妻を見て、夫は「すっかり変わってしまった」と嘆くが、実は先に幻滅しているのは妻の方らしい。ベネッセ次世代育成研究所は、約300組の夫婦に対して06年から09年まで追跡調査を実施した。そのデータによると、互いに愛情を感じている夫婦の割合は、出産前には7割以上を占めていたが、出産後には夫婦どちらも愛情についての実感が減少していくことが分かった。特に妻の夫への愛情の減り方は著しく、子どもが0歳児期には45.5%、2歳児期になるとさらに下がって、34.0%にまで落ち込んでいる。子どもができて家族の結束が固まるどころか、反対に夫婦仲が悪くなったという割合は意外なほど高いようだ。
一昔前までは、子育ては夫婦だけで行われるものではなく、同居する祖父母などと分担することで負担が軽減されていた。しかし、核家族化と地域社会の崩壊によって、子育てをひとりで行わなくてはならない妻が急増。頼れるのは夫のみという閉鎖的な環境の中で、夫の非協力的な態度が妻の心に与えるダメージは相当な大きさのようだ。
産後クライシスは子どもが成長した後でも、夫婦仲に影響を与えると言われている。育児に従事する妻の精神的・肉体的負担を理解しない夫に対し、妻が抱いた不信感は長く尾を引く。子どもに夫の悪口を吹き込む妻や、夫の帰宅拒否症、家庭内別居など、夫婦不和の要因のもとを辿れば産後クライシスに行きあたるのかもしれない。
互いにストレスを与えあう関係は夫婦だけでなく、子どもの人格形成にも影響する。常に険悪なムードの家庭で育った子どもは、自己評価が低く、人への不信感を強くする傾向にあるという。出産を経験することによって夫婦仲が暗転するというのは、あまりにも寂しいことである(編集担当:久保田雄城)