「大手銀行が中小企業への融資を増やす」。先日、日本経済新聞は、三菱東京UFJ銀行や、りそな銀行はこれまでの保守的な融資姿勢を改めることで、企業向け融資を認める基準を柔軟にし、業績不振の企業にも貸しやすくしたと報じた。企業業績の回復で各行とも利益が過去最高水準となり財務が改善したたことが背景にあるようだ。
日銀が量的質的緩和を始めて1年が過ぎ、銀行融資は全体で2013年度に437兆円と2.5%増えた。日経新聞によると、1990年代に不良債権問題を起こした反省から、大手銀行は融資基準を厳しくしていた。2014年3月期は3大メガバンクがそろって過去最高益を更新。好調な業績を受け、従来なら貸せなかった企業に融資する動きが大手行に広がってきたというのだ。
しかし、好調な大手行の決算の背景には、脆弱な収益性の弱点が隠れている。帝国データバンクは6月26日に発表した「国内主要112行の預金・貸出金等実態調査」でその収益構造についてメスを入れている。大手銀行、地方銀行、第二地方銀行の業態別にみると、貸出金は3業態すべてで増加、しかし貸出金利息は3業態すべてで減少しているのだ。つまり、貸出金は低金利競争の結果、利鞘が縮小し収益性が悪化していることが分かる。
大手行がリスクを取って中小企業への貸出を増やそうしていることは事実だが、「好調な業績を受け従来なら貸せなかった企業に融資する動きが大手行に広がってきた」と、手放しで喜ぶわけにはいかない銀行の苦悩が裏にある。「中小企業向け融資を強化して、収益性を確保すること」、これが中小企業向け融資拡大へ舵を切る銀行の本音なのかもしれない。
また、積極的な融資は新たな不良債権を抱える可能性もあり、リスク管理体制が問われる。すべての銀行が一律に中小融資に対して舵を切ることに筆者は違和感を感じる。それぞれの収益構造、リスク許容度に応じた戦略を取ることが経済合理性に基づいた企業行動であるはずだ。業界が一丸となって同じ方向へ進む姿は、かつての護送船団方式の亡霊を見ているようだ。(編集担当:久保田雄城)