9日のNYダウは78ドル高で3日ぶり反発。NASDAQは27ポイント上昇。前日取引終了後に4~6月期決算の先陣を切ってアルコアの決算が発表され、1株当たり利益が0.18ドルで市場予測を上回り決算シーズンは幸先の良いスタートになった。6月17、18日に開かれたFOMCの議事録が公表され、量的緩和策は経済が予想通り改善すれば10月終了が妥当という見解。事実上のゼロ金利政策は量的緩和策終了後も相当の間、維持するフォワードガイダンスも支持された。早期利上げの心配なしと安心感で株価は上昇したが、NYダウは17000ドルにあと1.05ドル及ばず。アルコアは5.7%上昇しモメンタム銘柄も下げ止まった。アメリカの長期金利はさらに低下し、10日朝方の為替レートはドル円101円台半ば、ユーロ円138円台半ばで、円高基調に変化はなかった。
取引時間前に国内の経済指標が3本。5月の機械受注統計は前年同月比-19.5%で市場予測を大きく下回り内閣府は基調判断を下方修正。5月の第三次産業活動指数は前月比+0.9%で経済産業省は「全体として戻し幅は小さく回復の勢いは十分でない」という見方。6月の企業物価指数は+4.6%で5月の4.4%より多かったが、イラク情勢を受けての原油高、ガソリン価格高騰が影響していた。
CME先物清算値は15350円。朝7時に台風が九州に上陸し列島各地で物は壊れる、人は死ぬの大荒れの天気の中、日経平均は15.65円高の15318.30円で始まる。午前9時7分に15326円まで上昇するが、スルスル急落してマイナスに落ち、9時26分に15300円を割り込む。9時33分の15272円を底に反転して10時までにプラスまで戻すが、10時台はおおむね15280~15300円の小幅安のレンジで推移した。TOPIXは安値を更新して弱い動き。11時に6月の中国の貿易統計が発表され、輸出も輸入も貿易収支の黒字額も全て市場予測を下回った。これが豪ドルを急落させ、日経平均も11時2分に15253円まで下落する。11時台はおおむね15260円台で推移し、前引けは15265円だった。
後場はほぼ前引け水準で再開し、午後1時直前に一時15300円に迫ったが、おおむね15260~15280円での小動きが1時台まで続く。2時に発表された6月の消費者態度指数は5月から1.8ポイント上昇して41.1。内閣府は消費者心理の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に上方修正した。ところが、為替に変化がなくても日経平均は2時15分頃から急落し、15270円近辺から2時25分の15222円まで10分ほどで約50円一気に下げた。TOPIXも急落。先物の仕掛け売りで突然の「ゲリラ急落」で、市場関係者の本音はSQ前日に波風を起こしたくない午後の東京市場をかく乱した。回復力は弱くなかなか15240円を超えられない。逆に2時51分に15221円の安値をつけ、大引け直前にはさらに安い15215円をマークして、終値は86.18円安の15216.47円で今週4日続落した。日中値幅は111円。TOPIXは-11.57の大幅安で4日続落し終値は1259.25と1260を割り込んだ。売買高は19億株、売買代金は1兆6706億円だった。
値上がり銘柄は260、値下がり銘柄は1465で全体の8割を占めた。プラスセクターは1業種のみ。マイナスセクターは32業種。プラスは空運で、マイナス幅が小さい業種は不動産、食料品、石油・石炭、陸運、鉱業など。マイナス幅が大きい業種は証券、海運、機械、パルプ・紙、情報・通信、銀行などだった。
日経平均採用225種は値上がり33銘柄、値下がり183銘柄。プラス寄与度1位は大引け後に9~5月期の決算発表を控えていたファーストリテイリング<9983>で+10円、2位は昭和シェル石油<5002>で+0.98円。マイナス寄与度1位はソフトバンク<9984>で-10円、2位はKDDI<9433>で-4円で、ともに後場は低迷して悪役になっていた。
メガバンク3行は揃って下落したが、地方銀行には千葉銀行<8331>6円高、静岡銀行<8355>2円高、足利HD<7167>2円高など健闘する銘柄があった。大和証券G<8601>は15円安。野村HD<8604>は22円安で3日続落し7日終値731円から55円も下落し深刻。証券セクターは連日の業種別騰落率最下位だった。自動車大手はトヨタ<7203>59円安、ホンダ<7267>22円安、マツダ<7261>7円安など軒並み安。電機大手も日立<6501>5円安、東芝<6502>4円安、富士通<6702>8円安、ソニー<6758>9円安、シャープ<6753>とパナソニック<6752>が5円安などほぼ同様だったが、NEC<6701>は1円高と逆行した。
バイオ航空燃料関連銘柄でもあるIHI<7013>はメリルリンチがレーティングを引き上げ売買高15位に入り5円高。JAL<9201>は30円高で年初来高値を更新し3日続伸。バイオ航空燃料は2020年がメドで先の話だが、航空燃料ケロシンもNY原油先物の9日続落に伴って価格が低下すれば、書き入れ時の夏休みの運航コスト低減が期待される。もちろん中東の地政学的リスクが再燃しなければの話。空運セクターはこの日の唯一のプラス業種だった。
前日は大幅反落した「電線」のテーマ物色がしぶとく復活。沖電線<5815>は売買高が1位、売買代金も7位で、24円高で値上がり率も1位、昭和電線HD<5805>は売買高6位で1円高、東京特殊電線<5807>は同9位で2円高。東証2部の日本電線工業<5817>は2015年2月期の通期営業利益見通しを26.8%上方修正して28円高になった。今週の「電線音頭」の太鼓を叩いているのは仕手筋だと言われるが噂の域を出ない。
鉄鋼大手は新日鐵住金<5401>は2円安だったが神戸製鋼<5406>は1円高、JFEHD<5411>は12円安とまちまち。亜鉛の国際価格の上昇が続き東邦亜鉛<5707>は12円高で値動きなしも含め9日続伸し値上がり率10位。石油のほうは逆に原油安で、JXHD<5020>は4~6月期の経常利益が9割減という業績観測が出て5円安だった。
ABCマート<2670>が前日3~5月期決算を発表。売上高は18%増、既存店売上高は12%増、営業利益は30%増。純利益は46%増で第1四半期は3年連続で過去最高を更新した。通期見通しは据え置いたがSMBC日興証券が目標株価を引き上げ60円高。5月に発表されたイオン傘下の関東の食品スーパー再編の一角、マルエツ<8178>は3~5月期の営業利益が約4倍の11.5億円の観測で10円高になり年初来高値を更新し値上がり率11位。統合相手のカスミ<8196>は12円安だったが、いなげや<8182>は3円高、埼玉県のベルク<9974>は71円高で値上がり率13位、同じく埼玉県のヤオコー<8279>は100円高、東武ストア<8274>は3円高で、揃って年初来高値を更新していた。
学習塾の明光ネットワークジャパン<4668>は9~5月期の純利益が3%減と悪く3円安。台風上陸でウェザーニューズ<4825>は75円高で値上がり率17位だった。トッパン・フォームズ<7862>は2020年3月期に営業利益300億円を目指す方針を打ち出して13円高だった。
不動産セクターはマイナスながら業種別騰落率2位。午前11時に6月の東京都区部のオフィス空室率が発表され、6.45%で前月比で0.07ポイント下落し12ヵ月連続改善。平均賃料も106円、0.64%上昇した。それを受けて大手は1時台まで高かったが終盤売り込まれ、三井不動産<8801>は売買代金13位だが2円安、三菱地所<8802>は5円安、住友不動産<8830>は22円安で終えた。
新興市場は日経ジャスダック平均0.72%下落、東証マザーズ指数1.29%下落。割安通信関連の日本通信<9424>は110円安、ワイヤレスゲート<9419>は180円高。135円高のミクシィ<2121>は高値4200円で株式分割後の最高値を更新し、全市場トータルで売買代金トップに躍り出た。直近IPO銘柄のVOYAGE<3688>は前場上昇、後場一転下落で終値155円安と、早くも新興市場の悪いクセ、過激な値動きに染まっていた。
今週唯一の新規IPO、焼鳥メインの居酒屋「鳥貴族」をチェーン展開する鳥貴族<3193>がジャスダックに新規上場。大阪市が本社で、大倉忠司社長が「関ジャニ∞(エイト)」の大倉忠義さんのお父さんということで芸能界も注目。忠義さん本人も大株主。公開価格2800円に対し1時49分、2.2倍の6180円の初値がついた。終値はストップ高の7180円で高値引けという華々しいデビューだった。
この日の主役はベネッセHD<9783>の顧客情報漏洩事件。前日、760万件が漏洩し最大2070万件に達する可能性があると発表した。流出したのは「進研ゼミ」など通信教育を利用する子供や保護者の個人情報。売買代金15位と売り浴びせられ215円安で値下がり率16位。関連会社の東京個別指導学院<4547>も3~5月期の営業赤字拡大ともあいまって39円安で値下がり率5位だった。
だがそれ以上に深刻な影響が出たのがジャストシステム<4686>で、「流出した個人情報がジャストシステムの通信教育事業のセールスに利用されていたとベネッセの関係者が話し、DMにベネッセにしか登録がないはずの個人情報が記載されていた」と共同通信が配信して大騒ぎになり、一時ストップ安の146円安で値下がり率1位だった。果たしてジャストシステムはこの事件の黒幕なのか? それとも「善意の第三者」なのか? 本当の悪党が他にいるのか? 謎は謎を呼ぶ。(編集担当:寺尾淳)