iPSを応用して人工大腸がん幹細胞を作製 がん細胞の研究が大きく前進

2014年07月29日 09:27

 京都大学の医学研究科/iPS細胞研究所研究員の大嶋野歩氏、医学研究科教授の坂井義治氏、iPS細胞研究所教授の山田泰広氏および神戸大学医学研究科内科系講座iPS細胞応用医学分野特命教授の青井貴之氏らの共同研究グループは10日、iPS細胞誘導技術をがん研究に応用することで、人工的に大腸がん幹細胞を作製することに成功した。

 この技術は、iPS細胞誘導に使用されるOCT3/4、SOX2、 KLF4をがん細胞に導入し、iPS細胞を作製するのではなく、がん細胞にがん幹細胞の特徴を誘導する新しい技術であるという。がん組織からは十分量の採取が困難ながん幹細胞と同様の特徴をもつ細胞(人工がん幹細胞)を人工的に作製し、回収する新しい方法だ。作製した人工大腸がん幹細胞はヒト大腸がん組織の特徴を繰り返し再構成できる。このため、がん組織から採取困難だったがん幹細胞の詳しい研究が可能になり、がん幹細胞を標的とする新しい診断・治療法(創薬)開発への応用が期待されるとしている。

 がん幹細胞は、がんの転移・再発・治療抵抗性の原因となる細胞で、いわば「がんの親玉細胞」と考えられている。そのため、このがん幹細胞を「たたく」新しい治療法の開発が期待されているが、まだその治療法は未確立の状態だ。その理由の一つとして、がん幹細胞はヒトのがん組織中でごく少数しか存在せず十分な量の採取が難しいために、がん幹細胞の詳しい解析が行いにくいことが挙げられる。

 そこで、同グループは、人工的にがん幹細胞を作製することで、がん幹細胞を豊富に入手することができれば、がん幹細胞研究を推進することができると考えた。その結果、iPS細胞誘導の際に用いられる遺伝子(OCT3/4, SOX2, KLF4)を大腸がん細胞株に導入した後、iPS細胞作製とは異なる培養環境を用いることで、一部のがん細胞に大腸がん幹細胞でみられる特徴を獲得させることに成功し、人工大腸がん幹細胞と名付けた。さらに、この人工大腸がん幹細胞を選択的に回収する方法も開発した。また、この人工大腸がん幹細胞を詳しく調べた結果、ヒトがん組織中のがん幹細胞と同様の特徴を示すことを確認した。

 この研究成果によって、これまで採取が困難であったがん幹細胞と同様の特徴をもつ細胞を豊富に入手することが可能になる。これによって、がん幹細胞がもつ性質について、より詳細な研究が可能となり、がん幹細胞を標的とした新しい診断技術・治療薬の開発に役立つことが期待されるとしている。

 筆者の父は大腸がんで亡くなった。調べると大腸がんはがんの中でも遺伝性が強く、親が患った場合その子供がかかる確率は50%にも上るという資料もあった。このようなニュースがあるとなんだかホッとする。(編集担当:慶尾六郎)