世の中には、数多くの「賞」が存在する。ただ、賞とひと口に言っても、コンテストや試合などの勝利者に贈られる「prize」と、優れた功績や業績に対して贈られる「award」の大きく2種類に分けられる。どちらも素晴らしい賞であることは言うまでもないが、前者が勝利そのものを称える色合いが強い賞であるのに対し、後者は結果よりもむしろ、今後の発展を期待して贈られる賞という見方ができるだろう。そこには、これから新たに拡がっていくであろうビジネスのヒントを見つけることができる。
「award」の例として有名なところでは、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「グッドデザイン賞」がある。これは1957年に通商産業省(現・経済産業省)によって創設された、グッドデザイン商品選定制度(通称Gマーク制度)が元となって、その後50年以上に渡って続けられてきた、総合的なデザインの推奨制度だ。毎年約1,000件、これまで約40,000件以上が受賞している。有形無形にこだわらず、あらゆる優秀なデザインに贈られる賞として知られているが、2013年度は、「ママワゴン」をコンセプトにしたダイハツの軽自動車・タントや、株式会社メディカルチャープラスの最新の技術で驚異的な軽量化と高強度を実現したドライカーボン松葉杖など、特異なものではなく、将来のスタンダードとして期待される作品のデザインが金賞を受賞している。
また、ポータルサイトを運営するヤフー株式会社が9月に開催を予定している「未来予知アワード2014」も面白い。これは18歳以上30歳未満の若者世代を対象に、ITで自分と未来の世代を幸せにする新しいアイデアを募るもので、今回は「自分の未来をより幸せにするための課題」もしくは「家族や大切な人、自分の死後に残された人たちを幸せにする課題」から制作テーマを選んで応募する。見事、優秀賞に輝くと事業化のチャンスが与えられる。
未来や将来といった点では「キッズデザイン賞」も外すことはできない。8月4日には「第8回キッズデザイン賞」の受賞作272点の中から、最優秀賞など上位36点が発表されたばかりだが、最優秀作品にあたる内閣総理大臣賞に選ばれたマツダ株式会社の「MAZDA TECHNOLOGY FOR KIDS」や、経済産業大臣賞を受賞した積水ハウスの「子どもの生きる力を育むまち、子育て世帯応援タウン~ニッケガーデン花水木~」などが素晴らしいのはもちろんのこと、残念ながら上位入賞を逃した作品も、今後の日本社会の未来を豊かにするような作品ばかりだ。
キッズデザイン賞は、子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン、創造性と未来を拓くデザイン、そして、子どもたちを産み育てやすいデザインの顕彰制度。少子化が問題になっている日本の未来を考える上で、最も注目すべき賞の一つといえる。子どもの視点でつくられた商品やコンセプトは、年齢に関係なく、大人にとっても快適に利用することができ、ビジネスとしても今後に大きく広がる期待が持たれている。当初は、小さい子どもを製品の事故から守るという狭い範疇の受賞が目立っていたが、ここ数年は、社会全体で子どもや子育て環境に良いデザインや取り組みに広がってきている。
ちなみに、この「キッズデザイン賞」は年々、応募作品数が増え続けている。今回の応募作品は過去最高の408点となった。それだけ企業の関心も高まっているという証拠だろう。積水ハウス会長兼CEOで、キッズデザイン協議会の会長を務める和田勇氏は、「子供の安全・安心、健やかな成長を願う理念を実現する質の高い製品を開発し、日本だけでなく世界にもアピールしていきたい」と抱負を語っている。
かつては子ども向けデザインと言えば北欧などが一目置かれていたが、今回のような各企業の受賞作品を眺めてみると、日本の多くの企業が子ども目線でのものづくりやサービス開発をビジネスそのものの中で競い合って実現していることが感じ取れる。今やこの分野では北欧の追随ではなく、日本のものづくりの強みを生かしたオリジナリティが花開き、新たな市場が広がっているようだ。
優劣を競う「prize」もいいけれど、未来につながる「award」に注目すると、日本や世界の将来が見えてくるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)