アキュラホームは全国から収集した3000件にも及ぶ「住まい作りの改善(KAIZRN)案」をもとに試行棟を建設して検証を行っている。写真の鳩ヶ谷試行棟では、狭小な土地を最大限に活かす3階建て住宅や2戸1棟の長屋についての検証が行われている。
7月14日に国土交通省が発表した平成25年度住宅市場動向調査によると、前年度までマイナスに影響していた「景気の先行き感」「家計収入の見通し」等の6つの経済的要因が全ての項目でプラスに転じていることが分かった。また、民間金融機関からの借入金の金利タイプを調査した結果、「変動金利型」のシェアが若干減少し、「固定金利期間選択型(10年超)」及び「全期間固定金利型(10年超)」の選択割合が増加していることが分かったという。これらの調査結果から、景気の高揚感や消費税導入などの駆け込み心理などに後押しされて住宅の購入意欲は高まっているものの、目先の景気だけに左右されず、金利は少々高くてもある程度安定した支払いを選ぶ慎重な消費者心理が推測できる。
もちろん、この慎重さは住宅ローンの金利に対するものだけではないだろう。住宅そのものの価値、コストパフォーマンスなどについても同様の慎重さがうかがえる。値段が安いからといって、それだけで飛びつく人は少なくなっている。
住宅金融支援機構が住宅事業者を対象に行った調査でも、今年度の受注販売状況を昨年度よりも増加するとみている事業者の内、48.4パーセントが「自社商品の充実と改善」をプラス要因に挙げている。一方、昨年度よりも減少するとみている事業者の多くは、消費増税の反動減や景気の先行き不透明感など外的な要因を挙げており、「自社商品の充実と改善」についてはほとんど言及しておらず、対照的だ。
消費税の二段階増税や来年早々に控えた相続税及び贈与税の税制改正などの影響で、住宅市場が混沌としているのは確かだ。しかし、そんな状況下でも前向きである企業と、そうでない企業では、今後の業績やその企業の将来自体を大きく左右するのではないだろうか。あえて言うならば、消費税増税は一社だけに与えられた試練ではなく、業界全体、ひいては日本のあらゆる業種業態も同様だということだ。嘆く前に生き残る道を探さなければならない。
例えば、積水ハウスでは、構造的なことだけでなく「子育て」「エコ」「庭づくり」「ペット」などのキーワードで、顧客のライフスタイルに合わせたワンランク上の住み心地を提供することに力を入れているし、パナホームではパナソニックグループの総合力を活かしたゼロエネルギー住宅やスマートシティに力を入れているなど、大手も独自色を強く打ち出して差別化を図っている。
また、大手だけでなく、中堅のアキュラホームの試みも面白い。同社では全国の社員および関連団体・職人、学会などと協力して、3000件以上にのぼる「住まい作りの改善(KAIZRN)案」を収集し、実現可能な施策を盛り込んだ住宅を実際に試行棟として建築して、徹底したコストダウンとバリューアップを検証している。例えば、鳩ヶ谷に建設された試行棟では、マンションでは満足できない、予算3千万円前後の注文・戸建て住宅の検討者をターゲットに見据え、狭い敷地でも最大限に活用するべく、主に3階建て住宅のコストダウンや長屋(2戸1棟)による施行の合理化を検証しており、それを随時、現場にフィードバックしていくという。中でも長屋づくりに関しては、京町家の長屋をコンセプトに開発されているそうで、新しいものだけでなく、日本の伝統的な住宅からも学び、取り入れている点も素晴らしい。
今流行の太陽光発電やHEMSなどにしても、ハウスメーカーごとに考え方や重視している点は微妙に違う。正直なところ、価格も性能もそれほど大きな差はないように思う。大切なのは機器の性能そのものよりも、そのシステムをどのようなコンセプトのもとに、住宅に組み入れているかだ。いくら最新の機器を格安で組み入れられたとしても、かえってコスト高になったり、活用し難いものでは本末転倒だ。そういう意味でも、コストパフォーマンスの良い家を提供する為にそのメーカーがどのように考え、どのような努力しているかを知ることが、表面的な価格以上に価値のあることとして、これから益々、住宅選びの際の重要なポイントになってくるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)