日米欧、金利低下の連鎖 もはや「常識は通用しない」

2014年08月23日 21:48

 「国債を大量に発行すれば長期金利は必ず上がると習ったが、学校で習ってきた常識は全く通用しない」。麻生太郎副総理・財務・金融相は閣議後記者会見でこう感想を述べた。8月15日、午前の債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが心理的な節目の0.5%を下回り、1年4カ月ぶり低水準となったことを受けてだ。日本だけではない、欧州でも、米国でも長期金利は連鎖的に下落している。さらに、緩和マネーは株価をも押し上げている。世界のマーケットで何が起こっているのだろう。
 
 「株式と債券は、伝統的なリスクオンとリスクオフの行動を反映して、株式が上昇すれば債券は下落する逆相関関係にある」。しかし、現在のマーケットでは、普遍的と考えられてきたこの関係が崩壊してしまった。日米欧の主要国で連鎖的に金利の低下(債券価格の上昇)が進んでいる。信用度の高い国債ばかりではなく、信用度の低いハイ・イールド債、ジャンク債のようなものまでが人気だ。一方で、株式市場も堅調を維持している。

 金利が下がっても企業の設備投資は回復せず、賃金や物価の上昇率も鈍い。これらは程度の差こそあれ、日米欧に共通する。潜在成長力の低下による「成長の限界」を論じる識者も多い。世界で日本化が進んでいる。低インフレと低成長に苦しむユーロ圏に、かつての日本のような経済停滞が広がり始めたという指摘だ。

 債券高(金利低下)は経済への慎重な見方を映すため、通常なら株安を伴うことが多いが、日米では債券高と同時に株式相場も底堅さを保っている。各中銀の積極的な金融緩和が、実体経済よりも投資マネーを強く刺激し、株高・債券高の両立を演出している。これが行き過ぎればバブル経済のリスクと背中合わせとなる。米経済は回復基調を強め、米連邦準備理事会(FRB)は秋に金融緩和を停止し、来年にも利上げに動く見込みだ。しかし、利上げに前向きとみられたFRBのフィッシャー副議長も成長低下に懸念を示す。市場では「FRBは利上げを急がない」との味方が支配的になっている。日米ともに金融緩和の出口戦略としてバブルを黙認していると、マーケットは理解し始めている。

 麻生氏の言葉通り、主要国の金融政策は資本主義経済の根幹をなしてきた経済理論が通じない領域にまで踏み込んでしまった。意図的に作られたバブル経済は歴史的金融緩和政策を軟着陸させることができるのだろうか。後世の経済学者はこの歴史的大実験をどのように評価するだろう。(編集担当:久保田雄城)