「アルゼンチンは支払う」悲痛な全面広告のワケ

2014年07月12日 17:50

 「アルゼンチンは債務返済を継続したいが、継続させてもらえない」アルゼンチン共和国大統領府による悲痛な全面広告が朝日新聞の6月25日付け朝刊に掲載された。あまりに悲痛な全面広告が話題になっている。

 広告の背景にあるのは、2001年にアルゼンチンが陥ったデフォルト(債務不履行)だ。広告によると、債権者の92.4%がアルゼンチン国債の元本カットに同意し、同国は利息を支払い続けてきた。だが減額に応じなかった一部の債権者から格安で債権を買い取った投資ファンドが全額の支払いを求め、米ニューヨーク連邦地裁に提訴。同地裁は、同国に対し13億ドルを支払うよう命じた。さらに同ファンドへの支払いを済まさなければ債務削減に応じた他の債権者への利払いを禁じた。同国政府は利払いを実行するため米ファンドへの支払い猶予を求めたが、同地裁はこれを退ける判断を下した。

 同国の外貨準備は280億ドル。計算上は米ファンドに13億ドルを支払うことは十分可能だ。しかし、裁判所の命令に従って一部のファンドへの支払に応じれば、他の債権者から同様の訴訟を招くことになりかねない。これらの債権者への潜在的な債務額は前述の米ファンド(13億ドル)を含めて150億ドル程度とされる。同国が持つ外貨準備の半分超を占める。

 安価で購入したデフォルト債で法外な利益を狙う米ファンドに「政府が屈した印象を持たれたくない」。そのような国内世論への配慮もあるとみられる。このままでは利払い不能となり、格付け会社からテクニカルデフォルトと判断される可能性がある。13億ドルの原資はあるのに、簡単に支払に応じるわけにはいかないアルゼンチン政府の苦悩がうかがえる。

 広告は、投資ファンドとそれを支持する判決のせいで、「我が国は、少数のどん欲な投機家グループのせいで過去、現在、そして将来もアルゼンチン国民を苦しめ続けるこの長く困難な紛争の解決に向け、公正でバランスのとれた交渉条件を推進する司法判断を期待します。」と結んでいる。
 
 先進国経済は回復基調にありニューヨークダウは史上最高値を更新、新興国へも投資マネーが戻りつつあり、投資家はリスクオンの姿勢を強めている。しかし、アルゼンチンの苦悩が世界経済に波及しないとは言えない。(編集担当:久保田雄城)