NATOのラスムセン事務総長は5日の記者会見の席上、ウクライナ政府と親ロシア派武装勢力が停戦に合意したことを歓迎した上で、「政治的解決に向けたプロセスの始まりとなることを願う」と声明を発表した。しかし、同時に「停戦が実現し、合意が履行されることが重要だ」とも述べている。
英国のニューポートで4日、5日の2日間にわたり開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議において、元々、旧ソ連の欧州方面における軍事的脅威に対抗するために創設されたNATOが、ウクライナ問題に対する軍事的なプレゼンスを強めるロシアに対抗するため、その「原点に回帰」(NATO高官)する姿勢を明確にした。
NATOのラスムセン事務総長は5日の記者会見の席上、ウクライナ政府と親ロシア派武装勢力が停戦に合意したことを歓迎した上で、「政治的解決に向けたプロセスの始まりとなることを願う」と声明を発表した。しかし、同時に「停戦が実現し、合意が履行されることが重要だ」とも述べ、今後についても引き続き情勢を注視する意向を示した。これに先立つ4日、NATOは、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力に対するロシアの軍事支援が「NATO諸国全体の安全と安定に深刻な影響を及ぼしている」との共同声明を発表しており、ウクライナの防衛力強化のため、1500万ユーロ(約20億円)の追加支援を行う方針を明らかにしていた。同声明では「ロシアは、ウクライナ国境に数千人規模の部隊を展開させるとともに、東部の親ロシア派武装勢力に武器支援を続けている」と非難したうえで、ロシア軍の撤退を強く要求した。
また、同会議では有事に即応するために「緊急展開部隊」を創設し、欧州地域内で軍事的問題が発生した際に、数千人規模の部隊を48時間以内に展開することが可能とする能力を付与することなどを盛り込んだ「即応行動計画」を採択した。これについてラスムセン氏は、「NATOはすべての加盟国を守るために数日で展開できる新部隊を創設することで合意した」と発表した上で「ロシアに対する強く明確なメッセージだ」と述べ、ロシアに対する軍事的牽制の意味合いがあることを強くアピールした。NATOは1991年のソ連崩壊以来、ロシアとの融和に努めてきたが、その努力は実を結ぶことなく、新たな対立の構図を浮き上がらせた。
NATOはかつて、2003年時点においても即応部隊の編成を行ったが、その能力は展開までに「数週間かかる」ものであり、現在の有事に即応できるとは言い難い状況だ。これは、当時ロシアの脅威度を低く認識していたことや、資金面などの制約により十分な部隊と装備を揃えることができなかったことが原因だった。しかし、ウクライナ情勢緊迫化の過程において、ロシア軍によるウクライナ国境付近での短期間における数万人規模の部隊動員能力が明らかになり、NATO加盟諸国にとって、ロシアの潜在的脅威が大きなものであることを再認識させたことが、今回の合意に繋がったと見られている。(編集担当:久保田雄城)