2014年度グッドデザイン賞受賞作に見る「デザイン思考」の今

2014年10月11日 20:09

 近ごろ、デザイン思考という言葉が注目を集めている。デザインといえばこれまで、図形や模様など、姿かたちを表現するものを指すことが多かった。しかし最近では、姿かたちを持たないもの、例えば企業や団体などの組織のあり方や新しいビジネス、サービスの方法、個人の生き方、ライフスタイルなどをレイアウトすること、そしてそれがもたらす効果に対しての関心が高まっているのだ。性能やコスト、見た目の感じなどは確かに重要だが、その製品が実際に使われる環境やユーザーの生活の上に成り立ったものでなければ、製品として優秀とは言いがたい。

 日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨制度として知られる「グッドデザイン賞」(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)の2014年度の受賞作が先日発表されたが、その受賞作もやはり、デザイン思考に優れたものが目立った。

 例えば、ヤマハ株式会社のグランドピアノ・CXシリーズ。グランドピアノなど、今さらデザイン云々ではないように思えるかもしれないが、このCXシリーズはピアノ指導者や音大の学生・受験生などにターゲットを絞り込み、様々なサイズのピアノ/環境でもいつもと変わらず集中して演奏できる「機能的なデザイン」をコンセプトに開発されたピアノ。従来の伝統的な建築様式に由来するピアノの装飾手法を見直し、不必要な造形要素を取り除いて、現代的に再構築したものとなっている。

 また、株式会社プレステージジャパンの「重箱」も面白い。重箱といえば、正月のお節料理などに用いられる、日本の伝統的な容器だが、同社の重箱はこれまでのイメージと異なり、純白一色の重箱となっている。一見しただけでは、奇をてらったデザインにも思えるが、そうではない。「使い手の趣向に限定されないニュートラルな意匠」がデザインコンセプトというだけあって、和でも洋でも溶け合えるものとなっており、例えば料亭のような古風な場でも、お洒落なフレンチレストランでも、もちろん家庭の食卓でも、違和感なく料理を引き立たせてくれそうだ。また、漆器ではなく磁器で作られているので、電子レンジなどでの調理にも対応できるので、お節料理以外にも重宝しそうだ。重箱の常識を覆しつつも、きちんと生活に根ざしたものとなっている。

 さらには、住宅メーカーである株式会社アキュラホームの「顧客と育つナレッジネットワーク-永代ビルダー塾-約320社の工務店の活動をネットワーク化」もデザイン思考の良い例だ。住宅関連のデザインといえば、内装や外装、インテリアなどを真っ先に思い浮かべてしまうが、同社の受賞作は少し違う。「永代ビルダー塾」は、同社を中心に全国約320社の工務店が取組む活動で、様々な参加型経験型イベントやメンテナンスに生活者自身を立ち会わせることで、生活者からのニーズを取得する機会を仕組化した。これらの情報や経験、知恵を既存のネットワークを活用して全国規模で共有することで、顧客満足度の高い住宅開発に貢献することはもちろん、厳しい市場競争の中で中小の工務店が生き残るための相互支援となっている点も評価が高い。ちなみにアキュラホームは「住居に関するサービス・システム」カテゴリにおいても「住みごこちのいい家~暮らしを豊かにするソリューション~ 生活者の価値を最大化する商品開発システム」で受賞を果たしており、今回の2作品の受賞によって、3年連続、計11作品のグッドデザイン受賞となった。

 今年度のグッドデザイン賞受賞作はすでに公式サイトで発表されている。いずれの作品も、生き方や暮らしをスマートにする、デザイン思考に優れたものばかりだ。スマートに生きることは究極のデザインなのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)