民間移管によって、それまで市営・公営にいた保育士が退職を余儀なくされたり、新しい現場に混乱したりというケースも多いようだ。教育において、コスト削減や効率化に比重を置きすぎることは、子どもはもちろん、現場の人々にも過剰な負担を強いることになるではないか。
日本全国の自治体で、保育所・幼稚園の民営化が進んでいる。多くの市町村が、はじめは実験的に数カ所を民営化し、続いて自治体全体で民営化を進めていく形をとっている。しかし、「民営化のメリットは行政側に多く偏っていて、肝心の子どもたちへの負担が大きい」、と保護者から不安の声も強い。
直近の事例では、10月7日に神奈川県川崎市が2017年度に市内4ヶ所5園の公立保育所を民営化することを発表。また、9月にも京都市が市営保育所6ヶ所の民営化を検討していることを発表したが、これに対し市内保護者から「拙速な民営化で、子どもへの負担が大きく不安。見直しを検討してほしい」と声が上がっている。京都の市営保育所保護者連絡会は10月20日時点で、見直し検討の署名がわずか10日間で12000筆以上も寄せられたと発表した。
京都市の保護者たちからの反対意見にも顕著だが、民営化のデメリットは保育の質が低下する可能性が高いことにある。民営化の目的はコスト削減・効率化に重点が置かれているため、どうしても人件費から削減されてしまう。人件費が削減されると保育士全体の数も減るだけでなく、特に人件費の高いベテラン保育士が人員削減されるケースが多くなる。もちろん若い保育士の方々を否定するわけではないが、現場に経験豊富な人材が減ることの打撃は大きい。保育士一人当たりの負担も増大し、一人一人の子どもを見守る時間は絶対的に減ってしまう。
民間移管がスムーズに行くかどうかも問題点だ。優れた民営保育所・幼稚園ももちろん存在するが、必ずしも保護者の意に沿った移管先になるとは限らない。実際のところ、これまでの全国各地での民間移管をみると、そうしたケースはむしろ稀なようだ。特に障害やアレルギーを持った子どもは、民営保育所では入所自体を断られることも少なくない。そうした子どもや保護者への支援が手薄になる恐れもある。
そして移管時の最大の問題が、保育士も場所も総替わりしてしまうことだ。0~5歳の乳幼児が、これまで慣れ親しんでいた大人からある日突然引き離され、環境が様変わりしてしまうというのは、どれだけストレスが大きいだろうか。事実、移管後の環境になじめず不安を訴えたり、神経質になったりする子どもも多いという。加えて、保育士側や保護者も環境の変化による負担を大きく受けることになる。
もちろん自治体側の経費削減や効率化の他、運営が公でなくなる分、園ごとに判断が迅速化されるなど、民営化にはメリットも存在する。しかし、それは本当に「子どもにとってのメリット」につながっているだろうか。養育・教育においては、効率よりも求めるべきものがあるのではないだろうか。
民営化を検討する全国の自治体には、本当に子どもが伸び伸びと育つことができる環境を考え、慎重に保護者と対話を重ねていってほしい。(編集担当:久保田雄城)