公益財団法人都市緑化機構主催による第34回「緑の都市賞」が10月16日に発表され、11月5日にホテルオークラ東京にて表彰式が行われた。
「緑の都市賞」は、緑の保全や創出活動に卓越した成果を上げている市民活動団体及び企業等、公共団体を顕彰する制度だ。都市の緑化推進、緑の保全による快適で地球にやさしい生活環境を創出することを目的としている。34回目となる今年、最上位にあたる内閣総理大臣賞は、積水ハウス株式会社が大阪駅前の新梅田シティに展開している「新・里山」「希望の壁」が受賞した。また、国土交通大臣賞に名東自然倶楽部の「猪高緑地」(愛知県名古屋市)や、株式会社メディカルマネジメント松沢、東京パワーテクノロジー株式会社による「都立松沢病院」(東京都世田谷区)、所沢市のみどりの基本計画による総合的な方針とそれに基づく各施策など3点が選ばれた。
「生物多様性」の課題を意識した企業の事業活動はまだ少ないが、内閣総理大臣賞を受賞した積水ハウスではこの生物多様性にいち早く着目している。2001年から「5本の樹」計画という、里山を参考に日本の自生種・在来種を中心に計画することで生物多様性に配慮した、顧客宅の庭への提案やまちづくりの取り組みを開始。「3本は鳥のために、2本は蝶のために、日本の在来樹種を」という思いを込めて「5本の樹」と名づけられたという。2013年には全国で累計1000万本の植栽を達成するなど、事業の中での落とし込みに成功している。今回受賞の「新・里山」「希望の壁」も、この「5本の樹」計画の思想に基づいて造られたものだ。
商業やオフィスの集積地である大阪駅前の新梅田シティに約2400坪(約8000平方メートル)に及ぶ「新・里山」が造られたのは8年前。また巨大緑化モニュメント「希望の壁」は、世界的な建築家である安藤忠雄氏の発案で昨年完成した。都市の緑化として立体的に緑を構成した新しいチャレンジだ。どちらも景観の向上はもとより、在来種を中心に育て、農薬などの使用を最小限に抑えるなどの生物多様性に配慮した管理手法を取り入れ、オフィスワーカーや近隣の子どもたちが農業体験活動を行うなど周辺の人たちを巻き込み、街中にありながら豊かな生態系を育むことに成功している。これらの取り組みが今回、都市部における緑化の新しいモデルとして評価された。
より快適な暮らしに対する意識が高まりをみせつつある昨今、街や住宅の資産価値をあげる意味でも、このような取り組みは今後益々注目される分野に発展していくであろう。単に多くの緑を植えるだけでなく、生き物を含めた本当の意味での豊かな環境を創り、緑が人と人をつなぎ、町と生き物をつなぐネットワークの要となる。このような取り組みが広がっていくことを期待したい。(編集担当:藤原伊織)