遅れてきた大物トヨタが、遂に「ぶつからないクルマ」に大々的に参入する

2014年11月30日 10:22

Toyota Safety Sense

トヨタの新しい予防安全技術「Toyota Safety Sense C」(廉価版)の実験の模様。実質価格5万円程度で装着可能となるという。

 トヨタ自動車の11月26日の記者発表によると、2015年に自動ブレーキシステムを主軸とする予防安全技術パッケージ「Toyota Safety Sense」を導入し、2017年までに日米欧で販売する、ほぼ全ての乗用車に設定・装備するとした。“石橋を叩いて渡る”トヨタが基幹技術を一気にグローバルで普及させようとするのは異例だ。

 トヨタは、ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)など環境先端技術分野では強みを発揮してきたが、センサーや電子制御技術を使う先進安全対策では、グループ会社の富士重を含めて他社に先行を許している。同社は「ぶつからないクルマ」へのニーズは想定以上に大きいと判断。デンソーなどグループ企業も巻き込みながら、トヨタが事故を未然に防ぐ予防安全技術の開発を急ピッチで進め、猛追する構えだ。

 クルマにおける予防安全とは、エアバッグなどのような事故発生後の安全確保を目的としたメカニズムではなく、事故そのものを起こさないための仕組み、システムを指す。トヨタが日米欧で「予防安全」を普及させるための新しいパッケージの名称は、前述のように「Toyota Safety Sense」。

 これまで進化させてきたトヨタの予防安全技術のうち、衝突回避支援または被害軽減を図る「プリクラッシュセーフティ(PCS)」、車線逸脱による事故の予防に貢献する「レーンディパーチャーアラート(LDA)」、夜間の前方視界確保を支援する「オートマチックハイビーム(AHB)」など、複数の安全機能をパッケージ化したシステムだ。

 レーザーレーダーとカメラまたはミリ波レーダーとカメラを組み合わせ、異なるふたつのセンサーで高い認識性能と信頼性を両立し、多面的な安全運転支援を可能にする。車両タイプに合わせておもにコンパクトカー向けの「Toyota Safety Sense C」(廉価版)と、ミディアム・上級車向けの「Toyota Safety Sense P」(上級版)の2種類を設定するという。廉価版は5万円前後と、現在の高級車などでの10万円程度でのオプション価格より大幅に引き下げる計画だ。

 なかでも、上級版の「Toyota Safety Sense P」には、歩行者検知機能付衝突回避支援型プリクラッシュセーフティ機能が備わり、ミリ波レーダーとカメラを用いて前方のクルマのほか歩行者をも検出し、警報、ブレーキアシスト、自動ブレーキで衝突回避支援および被害軽減を図るという。

 これまでトヨタはプリクラッシュセーフティ(PCS)の導入には極めて慎重に臨んできた。社内には、「ドライバーがPCS技術を過信すれば、むしろ事故が増える」とした声も根強く、一部高級車などでの搭載にとどまっていた。しかし、EUではクルマの安全格付対象項目にPCSが含まれ、この技術を搭載しないクルマは事実上「満点」は取得できない。北米でもPSC搭載車の保険料が割引となるケースが増えてきた。日本でもトヨタ傘下の富士重工業などが自動ブレーキ「アイサイト」搭載車を積極的に販売促進に取り入れて好評だ。

 今回発表となったToyota Safety Senseは、グループ会社のデンソーと開発段階から連携し、低価格でも性能を確保できるセンサーなどの開発を進めてきた。しかし、廉価版のセンサーでは独コンチネンタル社が納入企業となった。早くから欧州車に搭載してきた実績が高い競争力を持っていたということになる。今後の自動運転システムを含めて所同社を取り巻く技術は、自動車メーカーだけでは達成できず、電機、電子、IT、半導体などの技術革新を含んだコーディネート手腕が必須となる。トヨタの方向性については別項でも報告する予定だ。(編集担当:吉田恒)