東北大学大学院農学研究科の堀雅敏准教授の研究グループは10日、青色光を当てると昆虫が死ぬことを発見したと発表した。
紫外線の中でも波長が短いUVCやUVBは生物に対して強い毒性をもつことが知られている。しかし、比較的複雑な動物に対しては、長波長の紫外線(UVA)でも致死させるほどの強い毒性は知られていないという。一般的に、光は波長が短いほど生物への殺傷力が強くなる。よって、紫外線よりも波長の長い可視光が昆虫のような動物に対して致死効果があるとは考えられていなかった。
さらに、この研究で、ある種の昆虫では、紫外線よりも青色光のほうが強い殺虫効果が得られること、また、昆虫の種により効果的な光の波長が異なることも明らかになった。この研究成果は青色光を当てるだけで殺虫できる新たな技術の開発につながるだけでなく、可視光の生体への影響を明らかにする上でも役立つと考えられるとしている。
具体的な研究は、様々な波長のLED光を昆虫に当てて、殺虫効果を調べることから始まった。最初に、378~732nm(長波長紫外線~近赤外光)に渡る様々な波長のLED光の下にショウジョウバエの蛹を置き、羽化できずに死亡した蛹の割合を調べた。LEDの光の強さは直射日光に含まれる青色光の3分の1程度とした。その結果、青色光を当てた蛹は羽化できずに死亡したという。青色光の中でも効果の高い波長と効果の低い波長があり、440nmと467nmの 2 つの波長が高い効果を示した。
そこで、卵、幼虫、成虫に対しても467nmの光の殺虫効果を調べたところ、いずれも照射により死亡した。次に、蚊(チカイエカ)の蛹に対する青色光の殺虫効果を調べました。蚊も青色光を当てると死亡した。しかし、効果の高い波長は417nmの 1つだけで、ショウジョウバエと異なっていた。また、蚊はショウジョウバエよりも青色光に強く、全ての蚊を殺すには、直射日光に含まれる青色光の 1.5 倍程度の光の強さを必要とした。
また、青色光の殺虫効果を、小麦粉などの大害虫であるヒラタコクヌストモドキの蛹でも調べたところ、非常に高い殺虫効果が認められ、直射日光の5分の1から4分の1程度の光の強さで、全ての蛹が死亡したという。
研究グループでは、昆虫の種により有効波長が異なることから、その殺虫効果はヒトの目に対する傷害メカニズムに似ていると推測している。すなわち、種によって吸収しやすい光の波長が異なり、これによって、種により異なる波長の光が昆虫の内部組織に吸収され、活性酸素が生じ、細胞や組織が傷害を受け死亡すると推測している。
今回の発見により、青色の LED 光などを害虫の発生している場所に当てることで、簡単に殺虫できる害虫防除装置の開発が期待できるという。波長を工夫することで、衛生害虫、農業害虫、貯穀害虫、畜産害虫など様々な害虫に適用できるクリーンな殺虫技術になる可能性があり、また、青色光やそれに起因する活性酸素の生体への影響を評価する研究にも、今後、役立つとしている。(編集担当:慶尾六郎)