日本自動車工業会によると、ミニバイクを含む二輪車の販売台数は約5年前から回復基調にあり、2009年に約43万3000台、2011年に約44万5000台、2013年は約48万台(前年比107.3%)にのぼる。昨年の新車購入者の平均年齢は51歳で40~50歳代が全体の47%を占めている。
バイク人気が高かった1980年代に青春時代を過ごしたこの世代、つまり団塊ジュニア世代だ。警察庁は、「若い頃に二輪免許を取得しながらバイクに乗らなくなり、年を取って生活に余裕が出てきたのを機に、過去に憧れたが購入できなかった大型バイクを購入、再び乗り始めるリターンライダーが増えた」と分析する。
ところが、交通事故の死亡者数が年々減少を続ける中、中高年のバイク事故死が増えている。背景にあるのは、こうした「リターンライダー」の増加だ。体力やバイクの性能の変化・進化に感覚が追いつかず、単純な操作ミスなどで命を落とすケースが後を絶たない。
警察庁のまとめによると、昨年1年間の交通事故の死者数は4373人で、13年連続で減少したが、40~59歳のバイク事故(ミニバイク事故を除く)の死者数は170人で、10年前の約2倍にまで増加している。今年も11月末までで165人と、昨年の同時期と比べて17人増えた。
危機感を強める警視庁と神奈川、埼玉、千葉県警は年末12月23日、初めて合同安全教室を開いた。東京都世田谷区の警視庁交通安全教育センターに集まったのは、40歳以上の中高年ライダー86人。ハンドルの握り方やつま先の向きなど乗車の基本を確認した後、スラローム走行や板の上を走るバランス走行を繰り返した。
警視庁などが講習会で特に注意を促したのは「若い頃との感覚のギャップ」だ。交通総務課によると、中高年のバイク事故はカーブでの転倒や側壁への衝突など単純な操作ミスによる単独事故が約40%を占めている。同課の担当者は「年齢相応に集中力や体力が低下している。知らず知らずのうちに注意散漫になりやすい」と指摘。「バイクの性能も格段に良くなっていて、アクセルを開けすぎたりカーブで体重移動しすぎたりしてバランスを崩すことが多い」と分析する。
こうしたリターンライダーに対する、バイクメーカーの国内におけるマーケティング戦略にも問題がありそうだ。普通免許で乗れる“原チャリ”と呼ばれる50ccバイクを主婦層などに安直に販売する一方で、1000ccを超えるような“超”がつく大型高級マシンを経済的に余裕があるリターンライダーに訴求している。
また、現在国内で販売するバイクには250ccまでの軽量なバイクに趣味性の高いモデルが少ない。“スポーツ”を目指すとほぼ250cc超の大型モデルだ。リターンライダーも昔取った杵柄から、そんな大型スポーツを好む。が、現在の大型スポーツバイクは、1980年代ならそのままで「鈴鹿8耐」に出られるほど高性能だ。
新聞報道などをみると「警察庁は中年ライダーの事故を体力低下」と原因を分析しているようだが、中高年ライダーの事故は、利幅が稼げる「大型高性能バイクを訴求する」バイクメーカーのマーケティング戦略の犠牲者とみることも出来るのではないか。
一般公道でバイクを楽しむなら単気筒で125~250ccほどの軽量なバイクでも十分。バイクブームの1980年代といえばレーサーレプリカ全盛時代。そんな頃にバイクに乗っていたリターンライダーがどんな乗り方をするか想像に難くない。そんな体力が落ちたライダーに1000~1300ccの重くて速いバイクを与えるメーカーの責任も重い。
一般公道(高速含む)で満足できる走りを実現するのに4気筒は必要ない。また、国内の極端な音量規制がバイクの重量増を招いているともいわれる。また、幅の広い後輪に頼る設計も問題で、グリップさえ確保できればタイヤは細いほど曲がりやすい。
80年代に現在のリターンライダー達が憧れた「RZ250」などのようなバイクがマーケティングのイメージリーダーとなって、中高年が軽量なバイクに乗って楽しんでいたなら、こんなに事故は増えなかったかもしれない。バイクの価値観には、ライトウエイト・スポーツという概念はないのか?(編集担当:吉田恒)