この需給トレンドが前週のような「なかなか暴落しない」安心感をもたらしているわけだが、それ以外にも「4月の統一地方選挙の前に株価を下げられない」という〃政治的な事情〃とか、為替の円安がドル円120円前後で停滞し「ドル建て日経平均」が素直に上昇しているから海外投資家が売り仕掛けしにくくなったなど、「過熱感承知の上昇相場」の背景はいろいろ語られている。
その結果として、6日の日経平均終値のテクニカルポジションはまさに「天空の城」として虚空に浮かんでいる。前週は下回っていた時間帯が長かった5日移動平均18813円も結局は158円も下に従え、25日移動平均は18190円。75日移動平均線は17657円、200日移動平均線は16258円で、はるか下界にある。日足一目均衡表の「雲」は6日に再びねじれて17311~17317円。今週は下限は17311円に固定され上限は17384~17407円で、雲の幅が100円以下と薄くなる。ボリンジャーバンドでは25日線+1σ(18691円)と+2σ(19191円)の間にあり、+2σにあと8円まで接近していた2月27日と比べると、220円離された。
オシレーター系指標は高値圏が続いたためにけっこう後から追いついてきて、25日移動平均乖離率は4.3%で2月27日から0.4ポイント低下、25日騰落レシオは126.68で13.89ポイント低下、RSI(相対力指数)は88%で1ポイント低下、ストキャスティクス(9日/Fast)は75.06%で19.74ポイントも低下した。さらに6日には「パラボリック」と「MACD」に陽転シグナルが発生したので、「今週の上値追いの余地は前週よりも大きくなる」と単純に考えたりしてはいけない。今週は、もともとは泣く子も黙る下落恐怖のSQ週である上に、6日のNYダウは278ドルの大幅安を喫しているからだ。
6日に発表されたアメリカの2月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が29.5万人増で市場予測の中心値25.0万人増を4.5万人も上回り、失業率は5.5%で1月から0.2ポイント改善し市場予測中心値の5.6%よりも良かった。予想外の良い数字が出たが、NYダウは「利上げが近くなる」と反応して18000ドルを割り込み、2月9日以来1ヵ月ぶりの安値に沈んだ。それを見て、FRBが量的緩和政策(QE)を行っていた当時、経済指標が良すぎるとQE終了が早まるかもしれないという思惑でNYの株価が下がったのを思い出した人は少なくないだろう。「良いは悪い、悪いは良い」と謎の呪文を唱える『マクベス』の3人の魔女が、久々に復活した。
前週の日経平均はNYの少々の株安を意に介さなかったが、278ドルの全面安では悪影響が出る。6日の夜間取引で日経平均先物は19000円を突破したが、CME先物清算値は18860円まで下げた。今週、危惧されるのは「NY市場大幅安で損失が出たから、パフォーマンスが良かった日本株を利食い売りして穴埋めしよう」という海外投資家の動き。1月の東京市場が一時低迷した原因の一つに「急落した原油先物市場で出した損失を日本株を売って穴埋めしよう」という行動があったのは記憶に新しい。
為替のドル円が一時121円台にタッチして円安基調なので9日の下落は思ったよりも小幅ですむかもしれないが、10日、11日は、これまでに何度も市場関係者に辛酸をなめさせてきた「SQ週の魔の火曜日、水曜日」が来る。謎の呪文でNY市場を急落させた「3人の魔女」が、東京市場の地下の固い需給の岩盤に封じ込められていた「大魔神」を蘇らせるというシナリオである。13日は規模の大きいメジャーSQでもあり、「SQ値を低めに誘導したい」という思惑がからんで火曜、水曜に「大魔神」が阿修羅のごとく大暴れして東京市場を引っかき回すかもしれない。週前半の3日間は要警戒と言えそうだ。
今週は、前週は起こりそうで起こらなかった大幅下落が少なくとも1回起こると想定し、最悪ここで下げ止まるというサポートラインは25日移動平均線の18190円付近で、V字回復したとしても上値は約15年ぶりの19000円台タッチまでが限界とみる。25日移動平均乖離率+5%ラインは6日終値時点で19099円に横たわっている。もしも今週、大幅下落が起こらなかったら、オオカミ少年はオオカミに変身して、二十億光年の孤独を噛みしめながら下弦の月に吠えるしかない。
ということで今週の日経平均終値の変動レンジは18200~19000円とみる。日経平均が大幅安になったら、オプチミスト(楽観主義者)は「下がってもこの程度だ」と思い、ペシミスト(悲観主義者)は「これは地獄の一丁目かもしれない」と思うだろう。だがそれは表裏一体で、ほんの紙一重のこと。オスカー・ワイルドは「オプチミストはドーナツを見る。ペシミストはその穴をみる」と言っている。この世紀末の耽美主義者は、意外にもまるで堅実な投資家のように「魅力的であるよりも、永続的な収入がある方がよい」という殊勝な言葉も残している。(編集担当:寺尾淳)