これまで文字や図形のみに限られていた商標登録が、今年度より、音や色、動き等についても解禁されることとなった。正露丸のCMメロディを出願した大幸薬品<4574>、プラレールの青色を申請したタカラトミー<7867>など、新たな商標の出願数は、初日の4月1日だけで471件、1週間で約500件に達したという。ニーズの高さがよく窺えるが、この新制度によって、企業のビジネス展開にどのような成長効果が期待されるのだろうか。
その1つは、ブランド戦略の強化、多様化が進むことだろう。自社や製品に象徴的な音や色を、商標化で独占的に使うことができれば、他社の模倣を防いでブランドを保護するとともに、様々なアイデアでブランドを拡大することもできる。
大幸薬品は、正露丸の有名なラッパのメロディを登録することで「テレビやゲームなどのお腹が痛くなるシーンで正露丸を想起させる音楽として広く使ってもらいたい」と語っているそうだ。
同社は、れっきとした登録商標である「正露丸」の製品名称を、すでに一般的な名称になっているとの理由で、他社でも自由に商品名として使用できる主旨の判決を、2008年に最高裁から受けた経緯がある。今回の新登録には並々ならぬ思いがあるようだ。
もう1つには、ビジネス活動の海外展開に有利に働く面がある。米国、欧州、韓国など、海外にはすでに音や色彩の商標登録が認められている国も多い。日本で登録されれば、政府間協定によりこれら諸外国への出願手続きも容易になる。
また、音や色彩は文字や言葉と異なり、言語の違いに関わりなく宣伝効果を期待でき、世界共通のブランディングツールとして用いることができる。そこで国内企業の中にも、以前から海外で音や色彩を登録していた事例がある。久光製薬<4530>の「ヒ・サ・ミ・ツ」というメロディや、トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」の青・白・黒という3色の組み合わせがそうだ。久光製薬の場合、以前は看板商品である「サロンパス」の名前ばかりが有名だったが、このメロディ効果で広く社名が知られるようになり、サロンパス以外の売上げを大きく伸ばしたという。
これまで登録の対象であった文字や図形に比べ、その認識をより感性に訴える音や色は、商標としての条件を備えているか否か、客観的な審査が難しいそうだ。また、登録した一社の権利が強く守られる反面、他社の自由なブランド展開や広告活動が制限される恐れもある。権利の保護と自由競争の保証、この二者を両立させつつ審査を進める特許庁の力量が、今後は問われることだろう。(編集担当:久保田雄城)