政府の規制改革会議が提言した金銭解決制度の争点は、従業員の安易な解雇に結びつくのではないかということである。この制度は従業員にとって不利益につながるのであろうか。海外の事例を参考にしながら考えてみたい。
不当解雇の金銭解決の仕組みには2通りある。1つは「事前型の金銭解決」、もう1つは「事後型の金銭解決」である。
「事前型の金銭解決」は、従業員に一定の金銭を渡すことを条件に正当な解雇とみなす仕組みである。この方法は今回検討はされていない。また、海外でも先進国ではこのようなケースは確認できていない。
政府が検討しているのは「事後型の金銭解決」である。この方法は、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど主要国で取り入れられている解決方法である。
では、海外ではどのような方法で金銭解決が行われているのだろうか。
これはフランスの例であるが、まず裁判で解雇の正当な理由がないと不当解雇が認められる。そして現職復帰を裁判所が提案する。従業員、雇用主どちらかが現職復帰を拒否する。ここに至って裁判所は企業に対して金銭の保証を命じる。
ただ、多くの場合、現職復帰が拒否されるので金銭解決が基本となってくる。ここで注目したいのが、金銭保証を命じるのは、不当解雇の悪質性が低い場合だけである。つまり、金銭保証は企業への制裁という意味があるのだ。
金銭での解決を条件とした雇用契約の合意解除を求めた事例では、2000年のナショナル・ウエストミンスター銀行事件がある。この事件の判決では解雇の正当な理由があることが前提となり、その上で経済的保証があるという事情が考慮されたのであって、「事前型の金銭解決」とは考え方が全く違うものである。
現状の裁判では不当解雇と認められても現職復帰しか選択肢が無い。さらに、現状の裁判では従業員が金銭の保証を受けるには不当解雇の判決後、さらに和解や賠償請求などの手続きが必要となる。だが、政府の規制改革会議が検討している制度では、従業員の希望に応じて現職復帰か金銭解決かが選べる。
先進国では定着している不当解雇の金銭での解決であるが、金銭で解決するというドライな考えが日本に馴染むかどうかは不透明である。(編集担当:久保田雄城)