「雇用の維持・創出を図るには労働者保護の政策だけでなく、企業の事業活動の柔軟性確保や多様な就業機会の創出の観点を重視し、バランスのとれた政策を」と日本経団連などが昨年4月に労働法制の見直しなどを求めていたが、これに沿ったような「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会(座長:今野浩一郎学習院大学経済学部経営学科教授)の報告書が30日まとまった。
厚生労働省は「多様な正社員の円滑な導入、運用のための労使の効果的な取り組みが促進されるよう、導入企業の好事例を収集し、雇用管理上の留意事項や就業規則の規定例とともに周知に取り組む」と制度拡大に意欲満々。
有識者懇談会の報告では「育児や介護の事情で転勤が難しい者などについて就業機会の付与と継続を可能」などをあげ『勤務地限定正社員』を、また「金融、ITなどで特定の職能について高度専門的なキャリア形成が必要な職務でプロフェッショナルとしてキャリア展開していく働き方として活用できる」などとして『職務限定正社員』。「労働者がキャリア・アップに必要な能力を習得する際に自己啓発のための時間を確保できる」などとして『勤務時間限定正社員』をあげた。
事業所閉鎖や職務の廃止などに伴う対応で報告書は『整理解雇』について「勤務地や職務が限定されていても事業所閉鎖や職務廃止の際に、直ちに解雇が有効となるわけではない」とし「整理解雇法理(4要件・4要素)を否定する裁判例はない。解雇の有効性は人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向がある」などとした。
また『能力不足解雇』については「能力不足を理由に直ちに解雇することが認められるわけではない」とし「高度な専門性を伴わない職務限定では改善の機会を付与するための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格などが求められる傾向がみられる」とした。
転換制度については「非正規雇用の労働者の希望に応じて、雇用の安定を図りつつ勤続に応じた職業能力開発の機会や処遇が得られるよう、多様な正社員への転換制度(社内のルール)を設けることが望ましい」とする一方、「労働者のワーク・ライフ・バランスの実現などのため、いわゆる正社員から多様な正社員に転換できることが望ましい」とした。日本共産党は「正社員の労働条件の低下をもたらす仕組み」と批判している。
処遇については「多様な正社員といわゆる正社員との双方に不公平感を与えず、また、モチベーションを維持するため、多様な正社員といわゆる正社員の間の処遇の均衡を図る事が望ましい」とし「企業ごとに労使で十分に話し合って納得性のある水準とすることが望ましい。労働契約法第3条第2項の就業の実態に応じた均衡の配慮には、多様な正社員といわゆる正社員との間の均衡処遇も含まれる」とした。
報告書は、随所に「望ましい」の文言で結んでおり、多様な正社員といわゆる正社員の間の均等な待遇を図るべきなど、企業側に強く求める表現は避けた。
経団連は昨年の労働法制見直しを求める提言の中で「正社員に対する雇用保障責任が厳しい」などとして、そのことが「若年者募集の抑制、事業活動の柔軟性確保の支障になっている」と若年者募集の抑制の原因にあげた。
そのうえで「失業なき労働移動を実現するための政策の推進と雇用保障責任ルールのあり方を考える時期にきている」などとし、結果的に多様な雇用制度をつくることで、解雇しやすい正社員雇用の制度を生み出すことにならないか。企業が負うべき均等待遇の実現と雇用保障責任の部分が勤労者にどのように反映していくのか、多様な正社員の実態は数年にわたって観察していくことが強く求められる。(編集担当:森高龍二)