コンセントなんてもういらない? 世界標準化が進むワイヤレス充電の今

2015年05月16日 19:33

ロームIC

ロームはワイヤレス給電の国際規格で注目されるWPCのQi規格ミディアムパワー(15w以下)に準拠する業界初のチップセットを開発した。Qiの普及加速に期待が高まる。

 スマホの電源がない。そんな悩みが近い将来、解消されるかもしれない。

 総務省が発表している平成25年度版の情報通信白書によると、平成24年末時点での情報通信機器の普及状況は「携帯電話・PHS」が94.5%、その内「スマートフォン」は49.5%を占める前年比20.2ポイント増となっており、スマホの保有率が急速に増加していることがわかる。しかしながら、携帯時代からの共通の悩みとして「充電」の問題が未だ解決されていない。本体は薄型化、軽量化、小型化、高性能化していくのに、充電器だけは相変わらずダラダラと長いコードのままだ。また、機種やキャリアごとに規格が異なったりするので、出先で「充電ができない」と焦った経験を持つ人も多いだろう。スマートフォンと言いながらも、充電に関しては、あまりスマートでなかったのが現状だ。

 充電の際、「電源をコンセントから取る」ということは、携帯やスマホに限らず、すべての電気製品にとっての常識だ。いや、常識だった。これからはユーザーが電源を意識しないで電気製品を使える時代が、もうそこまでやってきている。それを可能にするのがワイヤレス給電技術だ。ワイヤレス給電技術自体は、もう何年も前から我々の日常生活で使われている。代表的なところでは、コードレス電話や電動歯ブラシ、電気シェーバーなどが挙げられる。専用の充電台にポンと置くだけで、とくに意識しなくても充電ができるのは便利なものだ。しかしながら、これには大きな問題があった。それは、同じコードレス電話であっても、機種やメーカーが違えば同じ充電台を共用できないということだ。もちろん、コードレス電話の充電台では電気歯ブラシや電気シェーバーの充電は不可能だ。当然といえば当然だが、専用の送電器が必要で各社別々の仕様となっていることが、ワイヤレス給電技術の普及にとっては大きな課題であり、障害でもあった。ワイヤレス給電技術の便利さを有効利用し、今後の爆発的な普及を果たすためには仕様の標準化が求められていたのだ。

 そしてようやく、ワイヤレス給電技術の標準化が現実のものとなり始めている。それを推し進めているのがワイヤレス給電の標準化団体であるWireless Power Consortium(以下WPC)だ。WPCは電子機器の無接点充電互換性に関する国際規格、Qi(チー)の策定と普及を進めている団体で、世界21カ国204団体が加盟して、無接点充電の国際規格づくりに取り組んでいる。日本からはパナソニック<6752>やソニー<6758>、東芝?6502?など大手電機メーカーのほか、電子部品大手のローム<6963>などが理事に名を連ねている。

 Qiの考え方は非常にシンプルだ。Qiロゴの付いたすべての機器はすべてのQi充電器で充電できる。つまり、スマホでもタブレットでも、さらには電気シェーバーでも、Qiロゴの付いている製品であれば、すべて同じ送電機器でワイヤレス充電が可能になる。しかもQiは国際規格なので、これが普及すれば世界中どこに行こうと充電器を持ち歩く必要がなくなるというわけだ。

 Qiはスマートフォン、モバイル機器向けなど身近なところから徐々に実用化が進んでいるが、先日、ロームがQi規格ミディアムパワー(15w以下)に準拠する業界初のチップセットを開発したことで、普及が一気に早まりそうだ。同社が開発に成功したのは、ワイヤレス給電制御IC「BD57015GWL」(受信・端末側)と「BD57020MWV」(送信・充電側)で、同ICを使用することにより、タブレットPCなど10Wクラスのアプリケーションでワイヤレス給電が可能になるだけでなく、スマホでは既存の倍速無線充電を実現する。さらに、さまざまな送信側規格に対応できるよう、受信・端末側は北米市場で展開しているワイヤレス給電の国際規格PMAにも対応しており、自動切り替えによるWPC(10W)とPMA(5W)のデュアルモード受電も可能にする優れモノだ。ロームでは7月よりサンプル出荷を開始する予定をしている。

 ワイヤレス給電では、WPCの他にもPMAなど複数の規格が策定されているが、現時点ではアライアンスのメンバー企業数と製品数でWPCが圧倒的優位を保っている。今回のロームのIC開発によって、さらに普及が広まることが期待される。WPCがこのまま世界標準を勝ち取るのか、それとも今後、他が台頭して勢力図が塗り替わるのか、ここ数年の内にははっきりとしてくるだろう。いずれにしても、充電するために電源コンセントを探しまわらなくて済むスマートな時代が、もうそこまで来ているようだ。(編集担当:石井絢子)