5月15日、通信業界4社の2015年3月期本決算が出揃った。携帯キャリア3社は2ケタ増益のKDDIとソフトバンクの最終利益は過去最高だったが、NTTドコモは減益決算。ドコモは営業利益で最下位に落ちた。2016年3月期の今期見通しはデータ通信量やコンテンツ収入の増加を見込むドコモが最も強気でV字回復を狙う。ソフトバンクは国内通信主体からネット関連企業の投資・育成主体へ成長の軸足を移す構想を明らかにした。
■音声定額の新料金プランが足を引っ張った
2015年3月期の実績は、NTT<9432>は営業収益1.6%増、営業利益10.6%減、税引前当期純利益17.6%減、最終当期純利益11.5%減の増収減益。年間配当は前期比10円増の180円だった。減益の主な原因はNTTドコモの2期連続の業績悪化、光回線の販促費用がかさむ東西の地域会社の高コスト構造、NTTデータの海外事業の赤字などだった。
NTTドコモ<9437>は売上高1.7%減、営業利益22.0%減、税引前当期純利益22.7%減、最終当期純利益11.8%減の2期連続連続減収減益。年間配当は前期比実質5円増の65円だった。旧プランから音声通話の定額制を柱とする新料金プランへの移行による減収、アップルの「iPhone」導入で他社に遅れをとって、通信料割引、端末割引によるコスト増が響いている。
KDDI<9433>は営業収益5.5%増。営業利益は11.8%増で14期連続過去最高益となりNTTドコモのそれを抜いた。経常利益13.5%増、当期純利益32.9%増で増収増益。年間配当は前期比40円増の170円。モバイルの販売手数料の削減に加え、固定電話とのセット割「スマートバリュー」が寄与して解約率も低下。スマホユーザーの増加、2台目のタブレット端末の契約などでデータ通信収入が伸びた。顧客1人あたりの月額平均収入(ARPA)は前期の4200円から4230円に増えている。
ソフトバンク<9984>は売上高30.1%増、営業利益8.8%減、税引前利益38.2%増、当期利益32.1%増、最終当期利益28.5%増で、最終2ケタ増益となった。年間配当は前期と同じ40円だった。前期に計上した企業結合に伴う利益がなくなり営業減益になったが、ソフトバンクモバイルの通信事業に限れば営業利益は実質19%増。最終利益は上場したアリババ集団の株式評価益にヤフー、スプリント、ガンホーなど子会社の利益が加わって過去最高を更新した。
■V字回復を狙うドコモとKDDIの一騎打ちか
2016年3月期の通期業績見通しは、NTT<9432>は営業収益2.3%増、営業利益10.6%増、税引前当期純利益10.6%増、最終当期純利益21.6%増の増収、2ケタ増益を見込む。予想年間配当は前期比20円増の200円だが、7月1日に1株を2株にする株式分割を実施すると発表している。最も期待しているのがNTTドコモのデータ通信料の伸びだが、M&Aを進めている海外のクラウド事業も円安の恩恵を受ける見込み。
NTTドコモ<9437>は売上高2.9%増、営業利益6.4%増、税引前当期純利益6.7%増、最終当期純利益14.6%増の増収増益を見込む。予想年間配当は前期比5円増の70円。新料金プランやサービスの提供で顧客基盤を確保し、パケット利用の拡大で増収増益を目指す。また、スマホの普及でデータ通信料、音楽配信、映像配信など「dマーケット」のコンテンツ料収入が増加する見込みで、販管費や設備投資の削減などコストカットも進めていくという。SIMロック解除は業績予想に含めていない。
KDDI<9433>は表面上は営業収益3.7%減、営業利益10.6%増、最終当期利益14.5%増の減収増益だが、今期から国際会計基準(IFRS)を任意適用したため単純比較はできず、営業収益は実質的には増収。最終利益は3期連続の最高益。予想年間配当は前期比105円減の65円だが、今年4月1日に1対3の株式分割を実施しているため実質25円の増配になる。データ通信収入は引き続き拡大する見通しで、田中孝司社長は「3期連続の2ケタ増益を目指す」と話している。
ソフトバンク<9984>の今期業績見通しは「投資や事業売却が頻繁に起こると想定され未確定要素が多い」として非公表。前期の反動で最終減益が予想されるが、孫正義会長兼社長は「実質的な増収増益基調は続く」と強調した。社名変更を発表し、7月1日から持株会社のソフトバンクを「ソフトバンクグループ」に、モバイルキャリアのソフトバンクモバイルを「ソフトバンク」と改称する。現ソフトバンク(持株会社)の代表取締役副社長にはグーグルのナンバー2だったニケシュ・アローラ氏が就任予定で、孫社長は「重要な後継者候補」と紹介。「今年は第2のステージに向かう意味で大変重要な年になる」「グローバルな会社になる」とも述べ、営業利益の約8割を国内通信事業で稼ぐ現状から脱皮し、アリババの上場などで得た資金を使っての海外のネット関連企業の投資・育成に成長の軸足を移す構想を明らかにした。(編集担当:寺尾淳)