週明けから国会で安保法制の審議が本格化する。自衛隊による後方支援活動の範囲が地理的制約をなくすだけでなく、支援内容においても広がることへの懸念は払拭できない。
後方支援の活動現場が「現に戦闘行為が行われていない現場」としても、戦闘状態になる危険性は、これまでの後方支援活動以上に高まるはず。
民主党の岡田克也代表は「自衛隊の活動範囲が広がることでリスクが高まるのではないか」と質した。しかし安倍晋三総理は「リスクとは関係ない」と答えた。なぜ、リスクと関係ないのかが分かりにくい。
岡田代表は「後方支援活動の定義も変わり、より戦闘地域に近いところまで行く。武器弾薬、武装した兵士の輸送も含めて可能になる。(それで)リスクが高まるのではないか」と尋ねた。安倍総理は「リスクの問題ではない」という。安保法制の特別委員会で、岡田代表らにはその答弁の中身を詳しく質していくことを期待したい。私たちも、その説明を聞きたい。注視したい。
自衛隊の海外派遣には3つの条件がある。公明党はこれを歯止めとして説明している。(1)国際法上の正当性の確保(2)国民の理解と国会関与など民主的統制(3)自衛隊員の安全確保。派遣には国連決議か関連する国連決議があることが絶対条件。例外なく国会の事前承認が必要。そのうえで、国会承認の前提となる基本計画段階で安全性が確保されているかなどもチェックできる、としている。
後方支援を行う場所(地域)の設定は防衛大臣が行う。その際に、自衛隊の安全確保を図ったうえでの場所設定に責任を持つから、後方支援の活動範囲は広がっても、安全確保を図れる場所でなければ設定しないため、これまでとリスクに変化はないというのが総理の論理なのだろうか。
佐藤正久元防衛大臣政務官は「自衛隊後方支援は、米軍等の自隊兵站と兵站基地を繋ぐ後方支援(セカンドライン)的な性格を持ち、現に戦闘が発生している現場等(ファーストライン・第一線)には(米軍が)自隊で運ぶ。自衛隊は防衛大臣が安全性を考慮して定めた実施区域内で後方支援を実施する」と説明する。そのため「防衛大臣が安全性等を考慮して設定する自衛隊活動の実施区域は、戦闘現場とは一定距離を確保する」と説明する。
しかし、そうした説明をする佐藤氏でさえ「自衛隊の活動でリスクを伴わないものはない」としたうえで「これまでの個別的自衛権に基づく活動も然り。平和安全法で、武器使用権限を緩和した形で駆けつけ警護や邦人保護等新たな任務遂行を可能とした。当然新たな任務追加に伴い新たなリスクは生じる」と新たな任務で新たなリスクは生じると認める。これなら理解できる。新たにリスクが生じるから、リスクを抑えるためにどうするかをこそ議論すべきだ。事実を認めるところから解決の糸口も見つかってくる。議論も進展する。
もう一つ疑問がある。戦闘地へ向かう米軍など戦闘機への給油や弾薬などの支援活動を可能とすれば、戦闘現場と一定距離を確保したところで、支援任務が可能なのか。また、こうした活動は戦闘相手国からみれば、まさに米軍等と一体した敵国部隊と受け取られるのではないか。一体化しているかどうかは、米軍等と敵対している相手国が判断することだ。こうした疑問にどう答えてくれるのだろう。
安倍総理は「後方支援活動実施区域で戦闘が始まれば一時休止や退避をすることで安全を確保することになっている」と説明する。戦闘が始まる危険のあるところに派遣することになるからこそ、支援活動の休止や退避も規定している。だとすれば「リスクは高まる」と認めるところから議論を始める誠実さや正直さが求められる。リスクが高まる事実を共有したところから議論は始まる。でなければ堂々巡りにおわり、国民の理解を得られないまま、強行採決という事態になるだろう。できれば来年夏までに論点を絞り込み、来夏の参議院選挙を衆参ダブル選挙にしてもいいのではないか。(編集担当:森高龍二)