窓後進国・日本が世界に誇るべき、新しい窓の技術

2015年06月06日 20:12

窓

住友理工独自の設計でナノメートル(10億分の1メートル)単位の薄さの「ナノ機能膜」を何層も重ねる事で光波長の選択を可能にした。

 省エネやCO2削減に対する取り組みは、先進各国の企業にとっては環境保全のための社会的責任であるとともに、非常に優良で大きなマーケットでもある。それゆえに省エネ技術の開発競争も年々激しさを増しており、自動車や家電業界、産業機器などあらゆる分野で各国の代表的な企業が省エネ技術の開発にしのぎを削っている。

 そんな中、注目を集めているのが「断熱」「遮熱」「蓄熱」に関する、熱マネジメントと呼ばれる分野だ。総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済が2013年に行った、断熱・遮熱・蓄熱分野についてまとめた調査報告書「断熱・遮熱・蓄熱市場の現状と将来展望」によると、2012年は熱マネジメント全体で5479億円の市場となったが、復興需要や消費税増税の後押しなどもあって堅調に拡大を続けており、東京オリンピックが開催される2020年には6550億円と、わずか8年で1千億円を超える伸びが予測されている。

 住宅関連分野における熱マネジメントとしては、断熱材として用いられるグラスウールや硬質ウレタンフォーム、押出法ポリスチレンフォームなどが市場の5割を占めるが、今後の成長が期待されているのが、窓からの熱を遮断することで室温の上昇を抑える窓断熱だ。

 窓断熱の代表的なものとしては、真空ガラスやペアガラスなどの断熱窓の採用や、樹脂サッシなど、窓そのものを断熱効果の高いものに変える方法のほか、遮熱コートを窓に塗布したり、断熱シートを貼り付けたりする方法がある。また、変わり種としては、窓にスプレーするだけで断熱膜によって窓をコーティングできる「窓用省エネスプレー 寒い暑いその時」が株式会社翠光トップラインから発売されており、インターネット通販などを中心に人気を集めているようだ。

 注目が高まる窓断熱の市場だが、残念ながら日本は他国に比べて一歩出遅れている感があった。窓先進国といわれる欧州だけでなく、中国や韓国にも性能面で劣っているといわれているのだ。しかし、2011年の東日本大震災以降、日本人の省エネ意識が全国レベルで高まったことや、断熱だけでなく窓の飛散を防ぐ目的もあって、ウィンドウフィルムの需要が急拡大したことなどから、日本製窓用断熱フィルムの性能が飛躍的に高まっている。

 2011年に豊田通商<8015>がナノテクノロジー素材を使用した世界初「窓用遮熱・断熱フィルム」の試験販売したのを皮切りに、2012年には住友理工<5191>(当時・東海ゴム工業株式会社)が窓用高透明省エネフィルム「リフレシャインTW32」を発売している。同商品は、2010年に同社が販売を開始した特殊な透明ナノハイブリッド多層膜を素材とする窓用フィルム「リフレシャイン」シリーズの一つ。最大の特長は、高い可視光透過率を実現したことだ。「リフレシャインTW32」以前の窓用フィルムは、性能を上げれば上げるほど、透明性が妨げられるのが宿命であり、ユーザーも暗黙の了解としてそれを受け入れていた。しかし、遮熱・断熱と透明性という、この相反する2つの大きな課題を、最先端の技術でクリアしたのが「リフレシャインTW32」だ。ナノメートル単位の薄さの「ナノ機能膜」を住友理工独自の設計で何層も重ねることで、光波長の選択を可能にした同商品は、窓ガラス本来の透明性を損なうことなく熱だけを遮断することに成功している。しかも、夏場の陽射しを遮るだけでなく、冬場は室内の暖気(遠赤外線)を反射し、窓での熱損失を抑えるので、夏は涼しく、冬は温かい窓を実現する。すでに住宅やオフィス、公共施設などに採用が進んでいるほか、西武鉄道新宿線・池袋線合わせて384車両に現在採用されている。

 日本には一体、どれだけの窓があるのだろう。太陽光発電や省エネ家電などの節電、創電、省エネ対策ももちろん大事だが、日本の窓が変われば、それだけで日本のエネルギー事情は大きく変わるのではないだろうか。2020年の東京オリンピックなど、今後、日本国内に向けて世界からの注目が集まることが予想される中、「窓後進国」などという不名誉なレッテルは一刻も早く拭い去りたいものだ。(編集担当:藤原伊織)