今、野党がすべきこと、安倍政権がすべきこと

2015年06月13日 11:27

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集団的自衛権行使容認のために政府が憲法解釈を変更し、閣議決定した昨年7月1日の議論に、1年を経て安保法案審議でようやく「入口」に立った。

 安全保障関連法案は合憲か、違憲か。つまり、集団的自衛権の行使は「限定的」にせよ、現行憲法下で認められるのか、否かが改めて争点になっている。

 集団的自衛権行使容認のために政府が憲法解釈を変更し、閣議決定した昨年7月1日の議論に、1年を経て安保法案審議でようやく「入口」に立った。

 衆院憲法審査会で与野党激突し論戦する今の状況は本来、昨年、与党協議で憲法解釈の変更を閣議決定する前に行われていなければならない議論だ。

 4日の衆院憲法審査会で政府提出の安保法案が合憲か、違憲かの問いに、野党推薦の憲法学者はもちろん、与党推薦の憲法学者まで「違憲」と断言した重さは政府・与党が真摯に受け止め、1年前にさかのぼり検証する必要を提起した。

 磯崎陽輔総理補佐官が「(最高裁で)違憲と判断されれば法律を改正する」と報道番組で語ったことは、違憲の可能性を秘めた法案であることを潜在的に認識しているといえまいか。自民党の谷垣禎一幹事長も裁判に耐えうる法制と強気だが「法律になった場合、違憲訴訟を起こされる方もあるかもしれない」と可能性を否定しない。

 法案審議の段階から違憲か合憲かが議論される安保法案。これを今国会で通そうとする政府・与党の姿勢は異常としか言いようがない。

 挙句、中谷元防衛大臣は5日の衆院安保特別委員会で「現在の憲法を、いかに法案に適応させればいいかという議論を踏まえて閣議決定した」とした。大臣は後に記者会見で「憲法の下で法案を作成していくという意味」と釈明したが、どうやって憲法を安保法案に合わせるかという本音が出た発言ではないのかと疑う。

 時の政府が成立させたい法律のために憲法解釈を変更する禁じ手をつかい成立させようとするのは立憲主義に反する。

 また高村正彦副総裁が党役員連絡会で「60年前に自衛隊ができたときにはほとんどの憲法学者が(自衛隊は)違憲と言っていた。その通りしていたら自衛隊もないし、日米安保もなかった。日本の平和が保たれていたのか極めて疑わしい」などと憲法より時の政府の判断が重要で、憲法学者の解釈論より、政治家は責任をもって国民を守らなければならないのだからと言いたげな発言は立憲主義、法治国家を根底から壊す発想だ。

 政府の強引な憲法解釈変更と安保法案に対して、自民党の村上誠一郎元国務大臣(衆院議員)までが「武力行使が認められているのは、我が国への武力攻撃があったとき、他に適当な手段がない場合に必要最小限度で認めるということだ。必要最小限度をいくら緩めても、我が国への直接攻撃がなければ武力行使はできない」と警鐘を鳴らしている。「立憲主義を壊してはならない、憲法違反の法律を成立させてはならない」と。

 まさに、国の根幹に関わる問題ということだ。極めて良識派の勇気ある議員が自民党にいると救われる気もするが、安倍政権は、よくよく考えて安保法制を再検証すべきだ。

 自民党総裁を務めた河野洋平元衆院議長も「政府は一度法案を引っ込め、再検討したほうがいい」と提起する。これだけの重要案件、そして、法案根拠への不信と懸念の声が与野党をこえて出ている中で、聞く耳を持てなくなったら、一国の総理として失格だろう。

 安保法制見直しの法案提出時の記者会見で、安倍総理は北朝鮮の弾道ミサイルが日本の大半を射程に入れている、日本人が海外でテロの犠牲になっている、スクランブル発進回数が10年前に比べ7倍になっているとし、切れ目ない安保法制の必要と法案の理解を国民に呼びかけた。

 しかし、その要因より、現実には機雷掃海や米軍の後方支援活動の在り方、米上下両院合同会議で「この夏までに安保法制を成就させる」と演説してきたことへの事実上の公約に対する約束優先のような姿勢がちらついてならない。

 数の力で安保法案は今国会の会期を延長し年内には成立させることになる。最後は強行採決になる可能性も否定できない。
 
 我が国国民の生命・財産を守る責任が政府にはあるという名目で成立させ、米国が超党派で20年来期待しているという日本における集団的自衛権行使の解禁を実現し、9月の自民党総裁選で総裁ポストに再び就いた後、安倍総理は、安保法制の強引な手法への批判をかわすためと野党勢力の結集をみるまでに、来夏の参議院選挙を待つまでもなく「解散総選挙」の可能性すら否定できない。

 安倍総理独特の手法だが、争点を別に掲げて戦い、過半数を維持できれば、安保法制見直しも国民から支持を得た。選挙で国民の信任を得たとその後の野党の追及には正々堂々、答弁することになろう。

 時の政府の思いによって憲法9条(戦争の放棄)を有名無実化する違憲法案を正当化するようなことを許してはいけない。集団的自衛権行使を容認する安保法制が本当に必要なら、憲法改正を行ってすべきことはいうまでもない。野党は一致結束し、安保法案の再検討を政府に迫ることが必要だ。(編集担当:森高龍二)