サーマルプリンタに革新的な新技術が登場。物流や医療分野での活用に期待

2015年06月20日 19:37

ローム プリンタヘッド

電子部品大手のロームは16日、物流用途や医療用途のプリンタ向けに、業界最高の高画質と高速印字を実現する、新構造サーマルプリントヘッド技術の開発に成功したことを発表した。高精細、高解像度が求められる分野での活用に期待が高まる。

 ローム株式会社<6963>は2015年6月16日、高精細、高解像度が求められる物流用途や医療用途のプリンタ向けに、業界最高の高画質と高速印字(600dpi時、一般品比約4倍の300mm/秒)を実現する、新構造サーマルプリントヘッド技術の開発に成功したことを発表した。革新的な新技術の登場に、関連業界を中心に期待が高まっている。

 PCやスマートフォンなどの普及とともに、世の中では今「ペーパーレス化」が進んでいる。あらゆる場面で多くの書類がデータ化されてメールなどでやり取りされ、新聞や書籍マンガなどもネットからダウンロードして楽しむ人が増えている。とはいえ、紙への印刷が完全に廃れてしまったわけではない。「ペーパーレス化」が進む一方で、以前よりも紙への印刷頻度が増している側面もある。例えば、パソコンが家電化するに従って、家庭用のインクジェットプリンタも一家に一台備え付けられているような時代だし、オフィスなどにおいてはむしろ、作成される書類が増えたことで、紙への印刷需要も増えており、プリンタやコピー機がなければ全く仕事にならないことも多い。とくに物流や医療分野はその最たるものだ。

 そんな中、注目が高まっているのがサーマルプリントヘッドだ。サーマルプリントヘッドとは、サーマルプリンタに搭載される記録デバイスのことで、主機能部は抵抗材料から成る発熱素子の集合体だ。一般的に家庭やオフィスに普及しているインクジェットプリンタやレーザープリンタとは異なり、サーマルプリンタは主に物流や品質管理、医療用途などの分野で使われることが多く、代表的なものでは券売機やFAX、バーコードラベルやデジタルフォト、リテールなどのPOS(Point of Sales)レシートなどがある。

 サーマルプリントヘッドはインクジェットやレーザーのプリントヘッドに比べて高速、長寿命、高画質という大きなメリットがあり、静音で動作するほか、インクも使用しないので清潔、さらには大きなトナーカートリッジを必要としないという数々の利点がある。このため、最近ではとくに安全面での理由から医療用途での普及が進んでいる。

 しかし、その構造上、大きな課題もあった。サーマルプリンタは発熱と放熱を繰り返して感熱紙などのメディアに印字を行うが、高速に連続印字をする場合に完全に放熱しきれず蓄熱するため、発熱体の温度が徐々に上昇してしまうことで、発色にじみが発生することがあるのだ。そのため、バーコードの読み取りができなくなるような印字品質低下の問題があった。それでなくても近年はQRコード等、バーコード自体の情報量や用途が増加しており、高解像度が必要とされている。また、リストバンドや医療容器ラベルのような微細領域には、高精度の写真や微細文字を印字する必要があるため、医療分野においてもより高い解像度と印字品質が要求されている。

 今回、ロームが開発に成功した新構造サーマルプリントヘッド技術は、従来の薄膜ヘッドに比べて、ヘッド接触機能改善で発熱体長を最適化するとともに、独自の微細加工技術で発熱体ギャップ幅を狭化、ドットの楕円形を解消することによって高解像度で正確な印字を実現している。さらに高熱伝導材料と新構造の採用で、高速印字を行う時の問題であった放熱性を従来品比の数倍に高め、高速に連続印字をする際でも発熱体部の温度を安定させることが可能となった。この技術によって、高速でも印字品質を損なわず鮮明な印字を実現している。

 日本では昔から、小さな米粒に文字やお経を書いて縁起物にするような風習もある。1992年にはミクロ工芸家の石井岳城氏が5年の歳月をかけて一粒の米に5551文字の片仮名を書き上げたという。技術が進歩すれば、いつか日本製のプリンタもそんな神業のようなことができるようになるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)