【医薬品業界の4~6月期決算】国内の不振を海外での主力薬販売の好調さで補っても、研究開発費や販促費が利益の重し

2015年08月12日 07:10

 8月3日、医薬品大手7社の4~6月期決算が出揃った。各社でほぼ共通しているのが売上面では低迷が続く国内販売を円安の効果が出ている海外、特に北米市場での主力薬販売の好調さでカバーしている点と、利益面では研究開発費や新薬の投入に伴う販売促進費のコストアップによって利益の伸びが抑えられている点である。

 ■7社とも増収だったが3社が最終減益に

 4~6月期の実績は、武田薬品<4502>は売上収益8.5%増、営業利益は22.2%減、税引前利益は18.8%減、四半期利益は25.9%減、最終四半期利益は26.4%減という増収、2ケタ減益だった。売上の約9割を占める医療用医薬品事業は10%増。国内では高血圧症治療薬「ブロプレス」が後発医薬品におされ減収だったが、全体の67%を占める海外では円安効果も加わって売上を大きく伸ばした。血液がん治療薬「ベルケイド」が約2割増収で、北米市場で昨年から販売している潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」が150億円を超える増収になるなど新薬も寄与している。しかし北米での販促費用や60億円増加した研究開発費に圧迫され、大幅減益になった。

 アステラス製薬<4503>は売上高16.4%増、営業利益22.4%増、税引前四半期利益34.6%増、最終四半期純利益24.4%増の2ケタ増収増益。四半期売上高2.5倍の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」、過活動ぼうこう治療薬「ベタニス」が好調なアメリカでは売上を37%伸ばした。為替の円安効果も寄与していた。国内は、前期は薬価改定やジェネリック医薬品の進出で10%の減収だったが、4~6月期では11%の増収に転じている。消炎鎮痛剤「セレコックス」など新薬が伸びた。全体では研究開発費や販売促進費の増加分を増収効果で吸収できている。

 第一三共<4568>は売上収益11.6%増、営業利益49.8%減、税引前利益38.2%減、四半期利益83.8%増、最終四半期利益74.8%増の2ケタ増収増益。国内販売が伸び悩んだが、為替要因が海外売上を押し上げた。貧血治療薬「インジェクタファー」、2月に発売した抗凝固剤「エドキサバン」はアメリカで、抗凝固剤「リクシアナ」は国内で売上を伸ばした。

 田辺三菱製薬<4508>は売上高4.2%増、営業利益66.2%増、経常利益55.5%増、四半期純利益55.2%増の増収、2ケタ増益。減収減益の前年同期とは様変わりした。国内販売は後発医薬品の進出による特許切れ品の販売減、血しょう分画製剤の販売提携の終了で不振だったが、海外で糖尿病治療剤「インヴォカナ」、多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティー収入が伸び増収になった。

 大日本住友製薬<4506>は売上高9.3%増、営業利益48.9%減、経常利益50.5%減、四半期純利益3.2%増で、増収、最終増益。国内は後発医薬品におされて特許切れ医薬品が落ち込んだが、高血圧症治療薬「アイミクス」など新薬の販売増でカバーした。北米市場では利益率が高い主力の抗精神病薬「ラツーダ」が伸びた。利益面では為替の円安のために北米で人件費、広告宣伝費が前年同期より約100億円増加して営業減益になったが、最終利益は投資有価証券の売却で約60億円の特別利益を計上して増益になった。

 エーザイ<4523>は売上収益4.8%増、営業利益10.1%減、税引前利益3.8%減、四半期利益3.7%減、最終四半期利益4.1%減の増収減益。自社開発のグローバル製品群の次期主力候補、抗がん剤「エリブリン」、甲状腺がん治療薬「レンバチニブ」、抗てんかん剤「ペランパネル」、肥満症治療剤「ベルヴィーグ」4品目の販売は好調だったが、それ以外の製品が苦戦した。研究開発費の増加に加え、アメリカで進めている人員削減などのリストラで構造改革費用がふくらみ、利益を圧迫した。

 塩野義製薬<4507>は売上高1.8%増、営業利益55.7%増、経常利益7.1%増、四半期純利益6.4%減の増収、最終減益。主力の抗うつ剤「サインバルタ」、高脂血症治療薬「クレストール」が売り上げを伸ばし、出資した英国のヴィーブ社に製造・販売権を供与中の抗HIV(エイズウイルス)薬「テビケイ」のロイヤルティー収入も順調に入ってきている。研究開発費や販管費を抑えられたことも大幅営業増益に寄与した。最終減益の要因は、前年同期に計上したヴィーブ社からの受取配当金が今四半期はなくなったため。

 ■通期業績は北米市場での主力薬の売上が左右

 2016年3月期の通期業績見通しは、武田薬品は売上収益2.4%増、営業損益は1050億円の黒字、税引前損益は1150億円の黒字、最終当期損益は680億円の黒字と黒字転換を見込み、予想年間配当は前期と同じ180円でどちらも修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は36.1%と大きい。海外での医療用医薬品販売は堅調に推移しそうで、前期に計上した訴訟関連の一時的な営業費用が消えるため、通期の損益は黒字転換を果たせる見通し。

 アステラス製薬は売上高9.2%増、営業利益28.2%増、税引前利益26.0%増、最終当期純利益25.1%増の通期の増収増益見通しも、32円の予想年間配当も修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は26.2%。「イクスタンジ」「ベタニス」の2本柱があるアメリカでの増収と為替の円安効果に期待している。

 第一三共は売上収益を0.1%増から3.3%増に、営業利益を34.4%増から61.2%増に、税引前利益を18.8%増から43.9%増に、最終当期利益を81.4%減から76.7%減に、それぞれ上方修正した。最終減益幅を圧縮したが予想年間配当は70円で変わりない。4~6月期の最終利益の修正後の通期見通しに対する進捗率は46.5%と大きい。後発薬の進出で逆風が吹く国内市場では、まだ特許切れになっていない薬が多いため増収を確保できる見通し。アメリカでの貧血治療薬「インジェクタファー」、国内での抗凝固剤「リクシアナ」の売上予想を引き上げた。大幅最終減益見通しの要因は、前期に計上したインド子会社ランバクシー株売却に伴うサン・ファーマシューティカル株の評価益がなくなるため。

 田辺三菱製薬は売上高4.6%減、営業利益0.5%増、経常利益1.0%減、当期純利益2.5%増の通期業績見通し、44円の予想年間配当を修正しなかったが、4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は36.7%で、4~9月期に対しては78.3%に達している。創薬拠点を埼玉県戸田市と横浜市の2ヵ所に、国内工場を2ヵ所とするなど、国内事業の再編、集約を進めている。

 大日本住友製薬は通期の売上高を5.6%増から8.0%増に上方修正したが、営業利益16.0%増、経常利益13.6%増、当期純利益16.5%増は修正なし。予想年間配当18円も変わらない。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は33.0%。売上高を上方修正した理由は、想定為替レートを1ドル115円から120.4円に引き上げるのに伴って北米での売上(日本円換算)が増えるため。利益は研究開発費、販管費の増加を見込んで上方修正しなかった。

 エーザイは売上収益1.5%増、営業利益62.3%増、税引前利益65.4%増、当期利益37.9%減の通期業績見通しも、150円の予想年間配当も修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は20.1%。アメリカで、自社開発の次期主力候補4品目がどれだけ売上を伸ばせるかが通期の業績を左右しそうだ。

 塩野義製薬は売上高8.0%増、営業利益43.9%増、経常利益2.1%増、当期純利益18.0%増の通期業績見通し、56円の予想年間配当に修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は18.5%。ヴィーブ社の配当金は下期以降に計上されるので最終利益は2ケタ増になる見通し。抗HIV薬「テビケイ」の売れ行きは想定以上なので、4割増を想定しているヴィーブ社からのロイヤルティー収入がさらに上積みされて今後、最終利益を上方修正する可能性がある。(編集担当:寺尾淳)